中国と日本の学校制度には、文化や社会背景を反映した興味深い違いが数多く存在します。特に、子どもたちの学びの基礎を築く小学校に注目すると、その違いはより鮮明になります。
今回は、中国と日本の小学校の違いを掘り下げ、そこから見えてくる中国ならではの教育事情や文化について詳しく解説します。日本との比較を通じて、隣国の教育システムへの理解を深めましょう。
【驚きの違い】中国と日本の小学校を徹底比較!英語・給食・送り迎えから見る教育と文化のリアル
目次
中国と日本の小学校、ここが違う!4つのポイント
一見すると、中国の小学校も日本の小学校も、30~40人程度のクラス編成で担任の先生が授業を進めるスタイルは似ています。しかし、細かく見ていくと、教育内容や学校生活の習慣には明確な違いが存在します。主な違いは以下の4点です。
xuéyīngyǔ
1、学英语 (英語を勉強する)
zàijiāchīwǔfàn
2、在家吃午饭 (昼ご飯を家で食べる)
yàojiēsòngháizi
3、要接送孩子 (子どもを送り迎えする)
lǎoshīhěnyǒuquánwēi
4、老师很有权威 (先生に権威がある)
これらの違いについて、一つずつ詳しく見ていきましょう。
1. 英語教育:なぜ中国の子供は英語が得意なのか?
中国の人々の英語レベルが、全体的に日本人よりも高いと感じる場面は少なくありません。会話力や発音の流暢さにおいて、その差は顕著です。もちろん、中国語には日本語のような「カタカナ英語」が存在しないことや、間違いを恐れずに積極的に話す国民性も要因として挙げられますが、最も大きな理由は早期英語教育にあります。
中国では、多くの地域で小学校1年生、遅くとも3年生から英語の授業が必修となっています。これは、2011年から段階的に導入された日本の小学5年生からの外国語活動(英語)必修化よりもかなり早いスタートです。授業時間数も日本より多く確保されている傾向にあり、早期から英語に触れる機会が圧倒的に多いのです。
さらに、中国の都市部では、子どもに複数の習い事をさせるのが一般的です。学校での英語学習に加え、週末には学習塾(补习班: bǔxíbān)に通い、特に「外教(wàijiào)」と呼ばれるネイティブの外国人講師から、より実践的な会話や正確な発音を学ぶ家庭も珍しくありません。教育熱心な親は、高額な費用を投じてでも、子どもに質の高い英語教育を受けさせようとします。こうした環境が、中国の子どもたちの英語力を底上げしていると言えるでしょう。

(中国の小学校で外国人の先生から英語を学ぶ子供たち)
2. 昼食事情:「給食なし」が当たり前?家で食べる中国の昼休み
日本の小学校では、栄養バランスの取れた給食が提供されるのが一般的ですが、中国の多くの小学校には給食制度がありません。学校はあくまで「勉強する場所」と位置付けられており、昼食は各自で対応するのが基本です。
中国の小学校の昼休みは、1時間半から2時間程度と比較的長く設定されています。これは、多くの生徒が一度自宅に帰り、昼食をとるためです。共働きの家庭が多いため、日中は祖父母が子どもの面倒を見ているケースも多く、家に帰れば温かい手作りの昼食が待っています。中国人には「食事は温かい出来立てを食べるべき」という考えが根強く、お弁当を持参するよりも、家に帰って食べることを好む傾向があります。
もちろん、家が遠い生徒や、家庭の事情で帰宅できない生徒もいます。そうした場合は、お弁当を持参したり、学校によっては簡易的な食事が提供されたり、学校近くの「小饭桌(xiǎofànzhuō)」と呼ばれる民間の託児兼食事提供サービスを利用したりすることもあります。しかし、主流はやはり「家で食べる」スタイルなのです。
3. 登下校:なぜ親の送り迎えが必須?「人さらい」から子供を守る現実
日本では、多くの子どもたちが友達同士で集団登下校を行いますが、中国では小学校の登下校時に親や祖父母が付き添うのが一般的です。これは単なる過保護ではなく、深刻な社会問題を背景としています。
その理由として大きいのが、「人贩子」(rénfànzi)と呼ばれる人身売買組織の存在です。子ども、特に小学生は誘拐のターゲットになりやすく、誘拐された子どもは労働力として売られたり、さらに悲惨なケースでは臓器売買の犠牲になったりすることもあると言われています。日本では想像し難いかもしれませんが、中国では子どもの誘拐事件が後を絶たず、社会問題となっています。
このような背景から、子どもを誘拐被害から守るために、保護者による送り迎え(接送: jiēsòng)が半ば義務化されているのです。校門前には、授業の開始・終了時間に合わせて多くの保護者が集まり、我が子を待つ光景が日常的に見られます。これは、変質者対策以上に、深刻な誘拐リスクに対する自衛策なのです。近年では防犯カメラの設置なども進んでいますが、依然として保護者の付き添いが最も確実な安全対策と考えられています。

(中国の小学校の校門前で下校する子供を待つ保護者たち)
4. 教師の権威:先生は絶対?日本とは異なる教師像
日本と中国では、教師に対する考え方や、その権威の度合いにも違いが見られます。中国では、伝統的に教師は尊敬される存在であり、その権威は日本よりも強い傾向にあります。
これは、儒教思想の影響や、社会全体における序列を重んじる文化が背景にあると考えられます。教師、特に公立学校の教師は国家公務員であり、安定した職業と見なされています。親たちも「先生の言うことはしっかり聞くように」と子どもに教え、学校の指導方針に従うのが一般的です。そのため、日本で時折聞かれるような「モンスターペアレント」の問題は、中国では比較的少ないと言われています。
教師は、学習指導だけでなく、生活態度や道徳面においても厳しく指導する権限を持つと考えられており、悪いことをした子どもをしっかりと叱ることができます。もちろん、近年では体罰に対する意識の変化も見られますが、教育現場における教師の威厳は依然として保たれており、学校内の秩序維持に繋がっています。この点は、生徒一人ひとりの個性を尊重し、対話を重視する傾向が強い日本の教育現場とは対照的かもしれません。
「良い先生」「良い教え方」も日中でこんなに違う
「良い先生」の定義や「理想的な教え方」は、国や文化によって大きく異なります。言語学習者の視点から見れば、分かりやすく、親しみやすい先生が良いと感じるかもしれませんが、中国における「良い先生」像は、日本のそれとは少々異なるようです。
中国で最重視される「学歴」- 教師選びの基準とは?
教師に求められる資質として、専門知識や指導力、人間性などが挙げられますが、中国の教育現場、特に高等教育に近づくほど、極めて重視されるのが「学历(xuélì)」、すなわち学歴です。
もちろん、教師になるためには然るべき資格が必要なのは万国共通です。しかし中国では、どの大学を卒業したか、修士号や博士号を持っているかといった学歴が、教師としての評価や採用を大きく左右します。特に有名大学や重点校(進学校)では、高い学歴を持つ教師を採用することが、学校のブランド価値を高めると考えられています。
これは、多くの親が「子どもには、よりレベルの高い教育を受けさせたい」「有名大学出身の先生に教えてほしい」と強く願っていることの表れでもあります。結果として、地方大学出身の教師は、十分な資格を持っていても、都市部の有名校ではなく、地方の学校や、より低い学年の学校での就職に限られてしまうケースも少なくありません。
しかし、学生時代の成績が優秀だった人が、必ずしも教えるのが上手いとは限りません。この学歴偏重の傾向は、教師の「教え方(教导方法:jiàodǎo fāngfǎ)」そのものへの関心が、相対的に低くなってしまう側面も持っています。
一方的な講義が「良い教え方」?中国独特の教育スタイル
では、中国ではどのような教え方が「良い」とされているのでしょうか?
tāotāobùjué shuō chūlái
滔滔不绝说出来。
(絶え間なくまくし立てるように話す)
これは「よどみなく、立て板に水のごとく話し続ける」様子を表す四字熟語(成语:chéngyǔ)です。驚くかもしれませんが、中国の伝統的な教育スタイルでは、教師が一方的に知識を伝え続け、生徒はそれをひたすら聞き、ノートに書き留めるという講義形式が主流でした。
教師から生徒への質問は少なく、生徒が自ら考えて発言する機会も限られています。著名な教授(名师:míngshī)の講演や授業風景を見ても、一方的に情報を伝達するスタイルが「良い教え方」として示されていることが多いのです。
このような、ともすれば生徒の思考を停止させかねない教え方が良しとされる背景には、歴史的・文化的な要因があります。知識は上から下へ一方的に伝達されるもの、という考え方が根強いのかもしれません。また、一党支配という政治体制の影響も指摘されています。疑問を挟む余地を与えず、効率的に情報を伝達することが重視される文化とも言えるでしょう。生徒たちもこのスタイルに慣れ親しんでいるため、疑問を感じないことが多いようです。
各国の「良い教え方」比較:アメリカ、日本、そして中国
「良い教え方」の基準は、国によって様々です。
例えば、アメリカやヨーロッパの一部では、生徒の興味関心を引き出し、楽しみながら学ばせるエンターテイメント性が重視されることがあります。歌やダンス、ゲームなどを取り入れた授業が「良い教え方」とされることもあります。
一方、日本では、落ち着いた雰囲気の中で、教師が生徒に問いかけながら、論理的かつ体系的に知識を説明していくスタイルが一般的です。生徒の理解度を確認しながら進める対話的な要素が重視されます。
そして中国では、前述の通り、教師が豊富な知識をよどみなく、一方的に伝達するスタイルが伝統的に評価されてきました。ただし、近年では国際化の影響や教育改革の流れの中で、生徒の主体性や思考力を育むための対話型授業やアクティブラーニングを取り入れる動きも徐々に見られ始めています。
教育スタイルが国民性に与える影響
こうした一方的な講義中心の教育スタイルは、中国の人々のコミュニケーション方法にも影響を与えている可能性があります。
例えば、日本に住む中国人の中には、何かを説明したり教えたりする際に、相手の理解度を確かめながら話すよりも、自分の知識や主張を一方的に、力強く話す傾向が見られることがあります。これは、相手に失礼な態度を取っているのではなく、自身が受けてきた教育環境の中で自然に身についたコミュニケーションスタイルなのかもしれません。
日本人からすると、やや自己主張が強く、一方的に感じられるかもしれませんが、その背景には「滔滔不绝(tāotāobùjué)」と話すことが良しとされてきた教育文化があることを理解すると、見方が変わるかもしれません。異文化コミュニケーションにおいては、こうした背景を理解し、受け入れる姿勢が大切です。
さらに深掘り!中国の教育制度と社会背景
中国の小学校や教師のあり方を理解するためには、その背景にある社会や教育制度全体を知ることが役立ちます。ここでは、現在の中国の教育を取り巻くいくつかのキーワードを見ていきましょう。
教育熱の高さと「鶏娃(ジーワー)」現象
中国社会は、歴史的に学歴を重視する傾向が強く、現代においても教育熱は非常に高いレベルにあります。特に都市部では、親が子どもに過剰な期待をかけ、幼少期から多くの学習塾や習い事に通わせる「鸡娃(jīwá)」と呼ばれる現象が見られます。「鶏娃」とは、親が子どもに「鶏の血を打つ(興奮剤を投与する)」かのように、絶えずプレッシャーを与え、勉強させる様子を揶揄した言葉です。
良い学校に入り、良い成績を収めることが、将来の成功に直結すると信じられているため、親は子どもの教育に多大な時間とお金を投資します。この過剰な教育熱は、子どもたちの心身への負担増や、家庭の経済的圧迫、さらには教育格差の拡大といった社会問題も引き起こしています。
都市部と農村部の教育格差
広大な国土を持つ中国では、地域間の経済格差が教育格差にも直結しています。特に、都市部と農村部では、学校の設備、教師の質、家庭の教育投資額などに大きな差が存在します。戸籍制度(户口: hùkǒu)もこの格差に影響を与えており、農村戸籍の子どもが都市部の質の高い公立学校に入学するのは容易ではありません。
政府も教育格差の是正に取り組んでいますが、依然として大きな課題です。都市部の重点学校(重点学校: zhòngdiǎn xuéxiào)と呼ばれる進学校と、地方の一般校とでは、進学実績にも大きな差があり、生まれた地域や家庭環境によって、受けられる教育の質が大きく異なってしまう現実があります。
大学受験「高考(ガオカオ)」の過酷な競争
中国の教育システムにおいて、最も重要かつ過酷な関門とされるのが、大学統一入学試験「高考(gāokǎo)」です。毎年6月に行われ、数百万人の高校生が受験します。高考の成績が、どの大学に入れるか、ひいては将来のキャリアを大きく左右するため、「人生を決める試験」とも言われています。
受験生とその家族にかかるプレッシャーは計り知れず、社会全体が高考一色になると言っても過言ではありません。試験内容や採点基準、地域ごとの合格ラインの違いなども、公平性を巡る議論の対象となっています。この一発勝負の厳しい競争を勝ち抜くために、多くの子どもたちが幼い頃から熾烈な学習競争に身を投じているのです。
まとめ:文化の違いを理解し、より良い関係を築くために
今回は、中国と日本の小学校の違いを中心に、英語教育、昼食、送り迎え、教師の権威、そして「良い先生・教え方」の基準について比較・考察してきました。さらに、中国の教育熱や地域格差、過酷な大学受験といった社会背景にも触れました。
小学校の段階から見られるこれらの違いは、それぞれの国の文化、社会構造、歴史的背景が深く関係しています。例えば、早期英語教育や学歴重視の背景にはグローバル化への意識と激しい競争社会があり、送り迎えの習慣には深刻な社会問題が潜んでいます。また、教師の権威や一方的な教え方には、伝統的な価値観や社会体制の影響が見え隠れします。
日本とは異なる教育環境で育つ中国の子どもたちは、良くも悪くも自立心や競争心が養われる側面があるかもしれません。こうした違いを知ることは、単に面白いだけでなく、隣国である中国の人々や文化への理解を深める一助となります。教育は、その国の未来を映す鏡です。互いの違いを認識し、尊重することで、より良い国際関係を築いていくことができるでしょう。