中国箸の文化と歴史-日本の箸との違い

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日本人にとって、毎日の食事に欠かせない「箸」。この馴染み深い食文化は、実は古代中国から伝わったものです。しかし、長い年月を経て、日本の箸と中国の箸は、その形状、使い方、そして背景にある文化や考え方において、それぞれ独自の特徴を持つようになりました。

中国の箸は、単なる食事の道具ではなく、古い伝統や思想を今に伝える貴重な文化遺産の一つとも言えます。「なぜ日本の箸と形が違うの?」「中国の箸の持ち方やマナーは?」「箸の長さに特別な意味があるって本当?」――そんな疑問を持ったことはありませんか?

この記事では、知っているようで知らない「中国箸」の奥深い世界を徹底解説!その起源から呼び名の変遷、独特の形状に込められた意味、そして日本とは異なる驚きの食卓マナーまで、中国の箸文化の魅力を余すところなくご紹介します。これを読めば、次に中国料理を食べる時、箸を見る目が変わるかもしれません。

【中国の箸文化】筷子(kuàizi)の歴史・意味・使い方|日本の箸との違いと驚きのマナーを徹底解説!

様々な素材の伝統的な中国箸と茶器のフラットレイ

箸の起源と呼び名の変遷:いつから「筷子」になったのか?

いつから箸を使い始めたの?古代中国の食事情

中国における箸の使用の歴史は非常に古く、考古学的な発見や文献記録から、その起源を辿ることができます。

Zhōngguó hěn zǎojiù yǐjīng shǐyòng cānjù, yòng sháozi de lìshǐ dàgài yǒu bāqiān nián, yòng kuàizi de shíjiān shàngxiàn hái bú quèdìng, dàn zhìshǎo yǐ yǒu sānqiān nián lìshǐ.

中国很早就已经使用餐具,用勺子的历史大概有八千年,用筷子的时间上限还不确定,但至少已有三千年历史。

中国では大変早くから既に食器が用いられていた。匙(勺子 sháozi)を使う歴史はおよそ8000年になる。箸(筷子 kuàizi)を使い始めた時期の上限はいまだ確定できないが、それでも少なくとも既に3000年の歴史はある。

最も古い箸の使用を示す証拠の一つは、河南省安陽市の殷墟(紀元前14世紀~紀元前11世紀頃の商王朝後期の都の遺跡)から出土した青銅製の箸です。この発見は、少なくとも3000年以上前から箸が使われていたことを示唆しています。

初期の箸は、おそらく熱い食べ物やスープの中の具材を取り出すための道具として使われ始めたと考えられています。当時は、ご飯や粥のようなものは主に「匙 (chí)」や「匕 (bǐ)」(どちらもスプーンのような食器)で食べ、箸は汁物のおかずや肉などをつまむために使われていました。また、肉を刺して食べるためのフォークのような道具「叉子 (chāzi)」も存在しましたが、こちらは時代とともに主要な食器としては淘汰されていったようです。洛陽の戦国時代の墓からは多くの叉子が発掘されています。

秦・漢時代(紀元前221年~紀元後220年)頃には、匙と箸の役割分担がより明確になり、箸は一般的な食器として広く普及していったと考えられています。

「梜」から「箸」、そして「筷子」へ:呼び名の変化とその理由

現在、中国語で箸は「筷子 (kuàizi)」と呼ばれていますが、この呼び名になるまでにはいくつかの変遷がありました。

  • 梜 (jiā): 最古の呼び名の一つとされ、物を挟んでつまむ様子から「夹 (jiā – 挟む)」という動詞に関連付けられています。「木」偏が付いていることからも、初期の箸が木製であったことがうかがえます。
  • 箸 (zhù): 漢時代(紀元前206年~紀元後220年)頃には、「箸」という呼び名が一般的になりました。この「箸」という字が日本に伝わり、現在も日本語ではこの字が使われていますね。
  • 筷 (kuài) / 筷子 (kuàizi): 明時代(1368年~1644年)になると、「箸 (zhù)」の代わりに「筷 (kuài)」という呼び方が現れ、次第に主流となっていきました。これには面白い理由があるとされています。

「箸 (zhù)」の発音は、船の運航に関連する言葉で「止まる、停滞する」を意味する「住 (zhù)」や「蛀 (zhù – 虫が食う、腐る)」などと同じ、あるいは似ていました。船乗りたちは、航海の安全や順調さを願うため、縁起の悪いこれらの言葉と同じ発音の「箸 (zhù)」を避けるようになりました。そこで、「竹」冠に「快 (kuài – 速い、順調な)」という字を組み合わせた「筷 (kuài)」という新しい字を作り、「物事が速やかに、順調に進むように」という願いを込めて使うようになったと言われています。これが「筷子」の語源の一つとされています。「子 (zi)」は名詞によく付く接尾語です。

しかし、興味深いことに、現在でも中国の一部の地域、特に福建省、広東省、広西チワン族自治区などの南方の方言では、「箸 (zhù)」という呼び方が残っていたり、「筷子」と「箸」の両方が使われたりしています。このことから、新しい呼び名「筷子」は中国の北方から広まったのではないかと推測する学者もいます。

中国箸の特徴:材質・形状・そして隠された意味

多様な原材料:木・竹から象牙・金属まで

中国箸の原材料は非常に多岐にわたります。

  • 竹 (竹筷 zhúkuài): 最も一般的で安価。軽く、扱いやすい。
  • 木 (木筷 mùkuài): 竹と同様に一般的。黒檀や紫檀などの高級木材を使ったものもある。
  • プラスチック (塑料筷 sùliào kuài): 学生食堂や一部の一般食堂でよく見られる。安価で洗いやすいが、熱に弱い、滑りやすいなどの欠点も。
  • 金属 (金属筷 jīnshǔ kuài): ステンレス製や銀製など。丈夫で衛生的。韓国では金属製の箸が主流ですが、中国では比較的少数派。銀製の箸は、かつて毒物を検知する(毒物に触れると変色する)ために使われたとも言われます。
  • 象牙 (象牙筷 xiàngyá kuài): かつては高級品として珍重されたが、現在はワシントン条約により取引が厳しく規制されています。
  • 玉 (玉筷 yùkuài): 翡翠などの玉で作られた箸。装飾品や贈答品としての意味合いが強い。
  • 陶磁器 (陶瓷筷 táocí kuài): 美しい絵付けが施されたものなど。割れやすいのが難点。

日常的には、レストランや一般家庭では木製や竹製の使い捨て割り箸(一次性筷子 yīcìxìng kuàizi)や、繰り返し使えるプラスチック箸、木箸などが主に使われています。使い捨て割り箸については、森林伐採や衛生面での問題も指摘されています。

独特の形状:長さ七寸六分、先は丸く持ち手は四角

中国箸の最も特徴的な点は、その形状と長さにあります。

  • 長さ: 伝統的な標準の長さは「七寸六分 (qī cùn liù fēn)」とされ、現在の単位に換算すると約22cm~25cm程度になります。日本の一般的な箸よりもやや長めです。
  • 形状: 物を挟む先端部分は丸く(円形)持ち手部分は四角形になっているのが基本です。
  • 太さと重さ: 先端は日本の箸に比べて太く、全体的に日本の箸よりもやや重みがあります。

この長さと太さ、重みは、日本人にとっては最初は少し扱いにくく感じるかもしれません。しかし、この形状には深い文化的意味が込められています。

中国箸の四角い持ち手と丸い先端のクローズアップ

中国箸の形には深い意味が込められている

「七寸六分」に込められた「七情六欲」

箸の標準的な長さ「七寸六分」には、人間の感情や欲望に関する教えが込められているとされています。

Wǒmen tiāntiān chīfàn yào yòng de kuàizi de biāozhǔn chángdù shì qī cùn liù fēn, yěshì bāohán shēnyì de: qī cùn liù fēn cháng, dàibiǎo rén yǒu “qī qíng liù yù”, shì bùtóng yú yībān dòngwù de qínggǎn dòngwù; yīncǐ, chīfàn shí yě shíshí tíxǐng rénmen yào jiézhì bùdàng yùwàng.

我们天天吃饭要用的筷子的标准长度是七寸六分,也是包含深意的:七寸六分长,代表人有“七情六欲”,是不同于一般动物的情感动物;因此,吃饭时也时时提醒人们要节制不当欲望。

私たちが毎日食事の際に用いる箸の標準の長さは七寸六分だが、それには深い意味も含まれている。七寸六分という長さは、人が「七情六欲」を有し、他の一般的な動物とは異なる感情を持つ動物であることを代表している。このため、食事をする際には常に、人々が不適切な欲望を節制するよう思い起こさせているのである。

七情 (qī qíng)」とは、喜(喜び)・怒(怒り)・哀(哀しみ)・懼(恐れ)・愛(愛しさ)・惡(憎しみ)・欲(欲望)という七つの感情を指します。「六欲 (liù yù)」とは、目・耳・鼻・舌・身・意(心)という六つの感覚器官から生じる欲望を指します。つまり、箸の長さは、人間が感情や欲望を持つ存在であることを象徴し、食事のたびにそれらを適切にコントロールすることの重要性を思い起こさせる、という教訓的な意味合いが込められているのです。

「天円地方」と「三才」:箸の形が示す宇宙観

箸の形状、つまり先端が丸く、持ち手が四角いことにも、古代中国の宇宙観が反映されています。

  • 丸い先端 (圆头 yuántóu): 「天」を象徴します。古代中国では、天は円いと考えられていました(天円 tiānyuán)。
  • 四角い持ち手 (方柄 fāngbǐng): 「地」を象徴します。大地は四角いと考えられていました(地方 dìfāng)。

この「天円地方 (tiānyuán dìfāng)」という思想は、古代中国の建築や器物などにも見られる宇宙観です。箸一膳が、天と地という壮大な世界を表しているのです。

さらに、箸を正しく持つ際の手の形も、この思想と関連付けられています。親指と人差し指を上(天)に、薬指と小指を下(地)にし、中指がその間(人)にくる形が、宇宙の基本要素である「天・地・人」の三才 (sāncái) を表している、という解釈もあります。食事という日常的な行為の中に、壮大な宇宙観や人間観が込められているのは、中国文化の奥深さを示しています。

中国での箸の置き方とタブー(マナー)

中国で食事をする際、箸の扱い方には日本とは異なるルールやタブーが存在します。これらを知っておくことは、相手に不快な思いをさせないために非常に重要です。

中国の食卓で正しく箸を使っている手の様子

正しい箸の扱い方は良好な人間関係の第一歩

基本的な箸の置き方

  • 食前: ご飯茶碗(碗 wǎn)の右側に、箸の先(丸い方)を上に向けて、縦に揃えて置きます。日本のように箸置き(筷枕 kuàizhěn / 筷架 kuàijià)を使う習慣は一般的ではありませんが、高級なレストランでは用意されていることもあります。
  • 食事中: 一時的に箸を置く場合は、皿の縁に揃えて置くか、用意されていれば箸置きに置きます。
  • 食後: 茶碗の中央に、きちんと揃えて縦向きに置きます。これは「食事が終わりました」という合図にもなります。

重要なのは、箸の長さを揃えて置くことです。長さが不揃いな箸を食卓に出すこと(三长两短 sānchángliǎngduǎn – 不揃いなこと、転じて不吉な出来事や死を暗示する)は、非常に縁起が悪く、死を連想させるとして嫌われます。

やってはいけない!中国箸のタブー(嫌い箸・忌み箸)

日本の「嫌い箸」と同様に、中国にもタブーとされる箸の使い方が数多くあります。代表的なものをいくつか紹介します。

  • 迷い箸 (游筷 yóukuài / 疑筷 yíkuài): どの料理を取ろうかと、箸を持ったまま料理の上をあちこちさまよわせること。
  • 刺し箸 (插筷 chākuài): 箸を料理に突き刺して取ること。特に、ご飯茶碗の真ん中に箸を突き立てる行為は、葬儀の際に死者に供える線香(香 xiāng)を連想させるため、絶対的なタブーです。
  • 寄せ箸 (拉筷 lākuài): 遠くにある食器を箸で手前に引き寄せること。
  • 舐り箸 (舔筷 tiǎnkuài): 箸についた食べ物を舐め取ること。品がないとされます。
  • 叩き箸 (敲筷 qiāokuài): 箸で食器を叩いて音を立てること。物乞いが注意を引く行為とされ、非常に無礼です。
  • 指さし箸 (指筷 zhǐkuài): 箸で人を指すこと。失礼にあたります。
  • 渡し箸 (传筷 chuánkuài / 移筷 yíkuài): 箸から箸へと食べ物を渡すこと。日本では火葬後の遺骨を拾う行為を連想させるためタブーですが、中国でも同様に不吉な行為とされます。
  • 涙箸 (泪筷 lèikuài): 箸先から食べ物の汁をポタポタと垂らしながら口に運ぶこと。
  • 逆さ箸 (反筷 fǎnkuài): 箸の持ち手側で料理を取ること。
  • そろえ箸 (揃筷 zhěngkuài): 食器の上で箸先をトントンと揃えること。

これらのタブーは、食事のマナーとしてだけでなく、他人への配慮や、縁起を重んじる中国文化の表れでもあります。知らずにやってしまうと、相手に不快感を与えたり、教養がないと見なされたりする可能性があるので注意しましょう。

日本の箸との違いを比較:形状・使い方・文化

中国箸と日本箸を並べて比較した画像

比べてみると面白い、日中の箸の違い

項目 中国の箸 (筷子) 日本の箸
主な材質 竹、木、プラスチック、金属、象牙、玉など多様 木(漆塗りなど)、竹が主流
形状(先端) 丸く、太め 細く、尖っていることが多い
形状(持ち手) 四角形が基本 円形、四角形、多角形など多様
長さ 長め(約22cm~25cm) やや短め(男女で長さが異なることも)
重さ やや重め 比較的軽め
主な使い方 食べ物を挟む、取り分ける(大皿料理が多い) 食べ物を挟む、切る、混ぜる(個人用の食器が主)
箸置き あまり使われない(高級店ではあり) 一般的に使われることが多い
文化的意味合い 天円地方、七情六欲など思想的意味合いが強い 機能性、美しさ、個人の道具としての意識
食事スタイル 大皿料理を取り分けるのが基本 銘々膳、個別の食器が基本

中国の箸と日本の箸の比較

このように比較すると、日中の箸文化の違いがより明確になります。特に、中国の箸が長くて太いのは、円卓を囲んで大皿の料理を皆で取り分けて食べるという食文化と深く関連しています。遠くの料理を取りやすく、また、熱い料理にも対応しやすいように、そのような形状になったと考えられます。一方、日本の箸は、個人用の食器で食事をするスタイルに合わせて、より繊細な操作がしやすいように先が細くなっている傾向があります。

まとめ:箸から見える中国文化の奥深さ

たかが箸、されど箸。中国の「筷子 (kuàizi)」には、三千年以上の長い歴史の中で育まれた豊かな文化、深い思想、そして日々の暮らしの知恵が詰まっています。その形状、長さ、使い方、マナーの一つ一つに、中国ならではの価値観や世界観が反映されているのです。

日本の箸との違いを知ることは、単に知識を増やすだけでなく、中国の食文化や生活習慣、さらには思考様式への理解を深めることにも繋がります。次に中国料理店で食事をする際や、中国を訪れる機会があれば、ぜひ箸に注目してみてください。そこから、また新しい中国の魅力が見えてくるかもしれません。

伝統を重んじ、形を変えずに受け継がれてきた中国箸。それは、変化の激しい現代においても、変わらない大切なものが存在することを示唆しているかのようです。使いやすさや個人の好みに合わせて多様化してきた日本の箸とは対照的なその姿に、文化の多様性と面白さを感じずにはいられませんね。

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ヤン・ファン (楊芳) この記事を書いた人

講師育成で知られる中国・東北師範大学卒業。講師歴は14年に及び、特に日系企業の駐在員やビジネスパーソン向けの指導経験が豊富です。現役の日中医療通訳士としても活動し同行・商談通訳等にも対応可能です
基礎からの正確な発音指導、ビジネス中国語、赴任前短期集中レッスン、HSK・中国語検定対策、日中医療通訳トレーニング。クイック・レスポンス、シャドウイング等の通訳訓練法をレッスンに導入し、実践的なコミュニケーション能力の効率的な習得をサポートします。企業研修(対面・リモート)、個人・グループレッスン、同行・商談通訳等にも対応可能で教材作成、レッスンカリキュラム、講師育成など幅広い分野で活躍。

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