歴史と人物から学ぶ中国語~李世民と貞観政要~其の二

    1. 中国歴史・民族

    中国の唐の時代の君主である李世民と、李世民と臣下の間で話し合われた政治問題集である貞観政要からは、ビジネスや実生活、そして現在の中国語にプラスになる情報がたくさん収められています。今回はその第二弾を紹介します。

    歴史と人物から学ぶ中国語~李世民と貞観政要~其の二

    明君と暗君の違いとは?

    この記事を読む前に、もし「歴史と人物から学ぶ中国語~李世民と貞観政要~其の一」の記事をまだ読んでおられないのであれば、先にこちらの記事に目を通されると良いかと思います。

    早速ですが、李世民と臣下の魏征(wèi zhēng)の二人の会話文に注目していきましょう。この会話は後の世代に語りつかれる名言となりました。

    hé wèi wéi míng jūn àn jūn?

    李世民:何谓为明君暗君?

    明君と暗君をどのように呼ぶか?(どんな特徴があるか?)

    jūn zhī suǒ yǐ míng zhě, jiān tīng yě,

    魏征:君之所以明者,兼听也,

    明君の明君たるゆえんは広く臣下の進言に耳を傾けることであります。

    qí suǒ yǐ àn zhě, piān xìn yě.

    其所以暗者,偏信也。

    暗君の暗君たるゆえんはお気に入りの臣下の話にしか耳を傾けないことにあります。

    この文章は書き言葉の形式になっているので、少しわかりにくいかもしれません。之所以…を前節に用いて、前節で結果を、後節で原因を述べる形式です。

    魏征はこの構文を用いて答えており、前節で之所以と述べてから明君もしくは暗君と述べ、後節でその理由となる原因に言及しています。

    何谓には「何を…と言うか(呼ぶか)」という意味があります。李世民は何をもって明君と呼ぶか、何をもって暗君と呼ぶか、それを知りたかったのです。

    この二人の対話ととてもよく似た成語があります。

    jiān tīng zé míng, piān xìn zé àn

    兼听则明,偏信则暗

    広く意見を聞けば正確な判断力を下せるが、意見を一方的に信じると判断を誤る。

    トップに立つ人はどうしても暴君になりがちなので、それを防ぐために自ら進んで周りの人の意見を聞くべきだと魏征は言っています。

    周囲の意見に進んで耳を傾けた明君・李世民

    実際李世民は臣下の言うことに進んでよく耳を傾けたそうです。というより、臣下が自分に対して意見を言いやすい雰囲気を出すことができるように努力していました。

    kāi zhí yán zhī lù, guǎng bù huì zhī mén, wén suǒ wèi wén, rì shèn yī rì

    开直言之路,广不讳之门,闻所未闻,日慎一日。

    他の人がいつでも率直に意見を言えるように道を開いておき、知らないことは自ら進んで尋ね、毎日慎重に歩む。

    直言とは直接ものを申すことで、不讳とははばかることなく発言することです。

    闻所未闻とはこれまで聞いたことがないことを聞く、日慎一日とは日々慎重に生きるという意味です。

    彼自身が述べたこの言葉からも、李世民がどれほど周りの意見を聞こうと努力していたかがわかりますね。これはリーダーに求められる資質の一つです。

    聞くことに関する中国語

    周囲の意見を聞くことはとても大切なことですよね。ここで「聞く」ことに関する中国語を紹介します。

    • 聞く→(tīng)
    • 注意深く聞く→聆听(líng tīng) 、倾听(qīng tīng)
    • とても注意深く聞く→留心聆听 (liú xīn líng tīng)、仔细聆听 (zǐ xì líng tīng)

    世界のベストセラーとして親しまれている聖書の中にも、聞くことの大切さがこのように述べられています。

    rén rén dōu yào lè yú líng tīng, bù jí yú shuō huà, bù jí yú fā nù

    人人都要乐于聆听,不急于说话,不急于发怒

    皆が,人の言うことに進んで耳を傾けるべきです。すぐに話したりすぐに怒ったりしてはなりません。

    hái méi tīng dào shì shí jiù huí yīng, bù jǐn yú chǔn, ér qiě diū liǎn

    还没听到事实就回应,不仅愚蠢,而且丢脸

    聞かないうちに返事をする人は,愚かであり,辱められる

    何か話したいと思った時でも、まずはじっくり人の話を聞く。これはいつでも、どんなシーンにおいても大切ですね。

    李世民の時代に聖書はすでに存在していました。李世民はキリスト教の宣教師を積極的に受け入れたといわれています。進取の気質をもって自分の知らない物事を受け入れていたのですね。

    一組のプラスチックは泉前に形成される。

    李世民が後世に残した名言:三鏡

    李世民は例えを用いるのも上手でした。自分に対する臣下の意見を鏡に例えてこのように述べました。

    自分の姿を映し出そうとすれば、必ず鏡を用いなければならない。それと同じように、君主が自らの過ちを知ろうとすれば、必ず忠臣の諌言(かんげん)によらなければならぬ。

    ここで李成民が述べた三鏡という言葉を中国語で紹介します。中国ではとても有名な言葉です。

    魏征李世民の臣下の中でもとても頼りになる部下でした。魏征が亡くなった時、李世民は人が持つべき三つの鏡に関する話をしました。

    yǐ tóng wèi jìng, kě yǐ zhèng yī guān.

    1、以铜为镜,可以正衣冠。

    それ銅をもって鏡となせば、もって衣冠を正すべし。

    yǐ gǔ wéi jìng, kě yǐ zhī xīng tì.

    2、以古为镜,可以知兴替。

    古をもって鏡となせば、もって興替(こうたい)を知るべし。

    yǐ rén wéi jìng, kě yǐ míng dé shī.

    3、以人为镜,可以明得失。

    人をもって鏡となせば、もって得失を明らかにすべし。

    ちょっと難しいですね。三つの鏡についてもう少し噛み砕いて説明します。

    • 銅の鏡:客観的に自分の見た目を確認できる普通の鏡
    • 歴史の鏡:過去の歴史から学べること
    • 人の鏡:身近にいてくれて自分に忠告してくれる人

    魏征李世民にとってまさに人の鏡でした。李世民は貴重な人材を失ったと大変惜しんでいます。この言葉からも、李世民が自分に忠告を与えてくれる人の存在をとても大切にしていたことがわかりますね。

    どんな人であっても立場が上がると、自分に心地良いことだけを言ってくれるイエスマンだけで周りを固めてしまう傾向があります。

    反対意見を言われたり自分の足りない点を指摘される事は、決して気持ちの良いことでは無いかもしれませんが、自分に対して勇気を持って発言してくれる人というのは本当に大切です。

    鏡の前にある中国のチェスの駒。

    三鏡に含まれる中国語構文

    この三鏡には大切な中国語構文が含まれています。

    すでに気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんが、三つの文全てに以…为…の形が用いられていますね。「…を…とする」と言う意味です。日常生活でも頻繁に用いられる構文で、書き言葉でもよく用いられます。

    この機会に三鏡を覚えておいても損はないでしょう。「三つも覚えられないよ…」と思う人もいると思います。もしそうであれば一つに絞って覚えるようにしましょう。三つの中でも、以铜为镜は現在でもよく用いられます。

    以…为…の例文

    以…为…の構文は使用頻度が高いため、さらに踏み込んで例文を紹介します。

    fèi yòng yǐ sān bǎi yuán wéi xiàn

    费用以三百元为限

    費用は300元までとする。

    yǐ wáng tóng xué wèi bǎng yàng

    以王同学为榜样

    王君を手本にする。

    yǐ rén mín de lì yì wéi zhòng

    以人民的利益为重

    みんなの利益に重きを置く。

    この構文を用いた四字熟語もあります。

    yǐ gāng wèi gāng

    以钢为纲

    鉄鋼を要とする。

    ※鉄鋼生産を中心とすることによって、工業全体の発展を図ろうとするやり方

    yǐ liáng wèi gāng

    以粮为纲

    食料を要とする。

    ※中国が1960年から1970年代にかけて目標としたスローガンのことで、食糧生産を中心にして、農業・林業・牧畜・副業・漁業の全面的発展を促すというもの

    yǐ tuì wéi jìn

    以退为进

    他の人に謙遜して譲ることを自らの道徳上の進歩とすること。

    以铜为镜を用いた会話文

    日本人の中国語学習者が中国人の王さんに以铜为镜の意味を聞いているシーンです。

    xiǎo wáng, yǐ tóng wèi jìng shì shén me yì si?

    A:小王,以铜为镜是什么意思?

    王さん、以铜为镜とはどういう意味ですか?

    zhè shì lǐ shì míng duì wèi zhēng de píng jià. yī gè rén yòng tóng dāng jìng zi, kě yǐ zhào jiàn yī mào shì bù shì chuān dài dé duān zhèng, yòng lì shǐ dāng jìng zi, kě yǐ zhī dào guó jiā xīng wáng de yuán yīn.

    B:这是李世民对魏征的评价。一个人用铜当镜子,可以照见衣帽是不是穿戴得端正,用历史当镜子,可以知道国家兴亡的原因。

    これは李世民の魏征に対する評価です。 銅を鏡にすれば、自分の服や帽子がきちんと着ているかどうかがわかりますね。歴史を鏡にすれば、国の栄枯盛衰の理由がわかるということです。

    táng cháo shí dài de rén bǎ tóng dàng zuò jìng zi?

    A:唐朝时代的人把铜当作镜子?

    唐の時代の人は銅を鏡として使っていたのですか?

    shì de. yòng rén dāng jìng zi, kě yǐ fā xiàn zì jǐ de duì cuò. wèi zhēng yī sǐ, lǐ shì mín jiù shǎo le yī miàn hǎo jìng zi a

    B:是的。用人当镜子,可以发现自己的对错。魏征一死,李世民就少了一面好镜子啊。

    はい。 人を鏡とすることで、自分自身の良し悪しを知ることができます。 魏征が死んでしまったので李世民は良い鏡を失ってしましました。

    lǐ shì mín zhè me xìn rèn wèi zhēng?

    A:李世民这么信任魏征?

    李世民は魏征をそんなに信頼していたのですか?

    shì de. zhè jù huà dài biǎo lǐ shì mín gěi le wèi zhēng zuì gāo píng jià.

    B:是的。这句话代表李世民给了魏征最高评价。

    はい。 この言葉は李世民が魏征に最高の評価を与えたことを意味しています。

    では、この会話文を噛み砕いてみましょう。

    〇〇是什么意思:何かの意味がわからないときには、〇〇是什么意思と尋ねます。

    端正(duānzhèng):きちんとしているとか、整っているという意味があります。

    当作(dàng zuò):〇〇とみなすという意味があります。

    对错(duì cuò):良し悪しという意味があります。

    好镜子(hǎo jìng zi):镜子には鏡という意味があり、名詞の前にを置くことで、良い○○という意味になります。ここでは、良い鏡という意味になります。

    一…就…(yī…jiù…):ニつの動作・行為が時間をおかずに継起するときに用います。…するとすぐに…という意味です。

    ダーツボードで。

    油断を戒める言葉

    どんな分野に関してもいえることですが、油断は禁物ですね。貞観政要にも「油断してはならない」を意味する言葉があります。

    jū ān sī wēi, jiè shē yǐ jiǎn

    居安思危,戒奢以俭

    平和な世の中でも災難があった時のことを考えていつも用心しておくべきであり、贅沢を戒めて倹約に努める。

    仕事でもプライベートでも、ついつい目の前のことでいっぱいいっぱいになってしまい、後に生じる危険についての備えができなくなってしまうことがあります。

    李世民は平和な時にこそ起こりうるリスクについて考え、ふさわしい準備をしておくべきであると説いています。

    未雨绸缪の意味と用い方

    居安思危は現在でも通じる中国語ですが、未雨绸缪(wèi yǔ chóu móu)という言葉もよく用いられます。この言葉には、雨が降り出す前に家の修繕を行うという意味があります。意味は居安思危とほぼ同じです。

    suī rán gōng sī lǐ méi yǒu fā shēng guò huǒ zāi, dàn wǒ men bì xū wèi  yǔ chóu móu, zhǔn bèi hǎo miè  huǒ qì.

    虽然公司里没有发生过火灾,但我们必须未雨绸缪,准备好灭火器。

    社内で火災は発生したことはありませんが、消火器を準備してよく備えておくことが必要です。

    未雨绸缪は使用頻度が高いので覚えておくと便利です。

    まとめ

    二度にわたり李世民と貞観政要について紹介しました。ビジネスや実生活、そして現代中国後にプラスになる情報をたくさん見つけることができましたね。

    歴史から学べる事はたくさんあります。意欲的に歴史から学ぶなら、人格も、中国語のスキルも向上させることができますよ。

    関連リンク

    名著94 「貞観政要」:100分 de 名著 – NHK 中国史上、最も安定した治世の一つを築いたと言われる唐の第二代皇帝・李世民。「貞観の治」と呼ばれる善政を行った李世民と彼を補佐した重臣たちとの間で交わされた政治的な対話や思想が紹介されています。

    リーダーの悩みを晴らす、「中国古典」の知恵~「貞観政要」の“三鏡” 中国史上有数の名君と言われる唐の太宗・李世民について、彼が軍事力を強化して勢力を拡大しただけでなく、律令制の整備など内政においても大きな業績を残したことが紹介されています。また、「貞観政要」から学べるリーダーシップに関する知恵が解説されています。

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