中国語学習を始めたばかりの方、または学習を続けているけれども「発音が難しい」「ネイティブに聞き返されることが多い」と悩んでいる方へ。この記事は、そんなあなたのための「中国語発音の完全ガイド」です。
中国語の文法は、実は英語や他のヨーロッパ言語に比べてシンプルな部分も多く、単語も漢字文化圏の私たち日本人にとっては比較的覚えやすいものです。しかし、多くの学習者が直面する最大の壁、それが「発音」です。
どれだけ多くの単語や文法をマスターしても、発音が正確でなければ、簡単な挨拶さえも通じないことがあります。逆に言えば、発音さえしっかりしていれば、たとえ知っている単語が少なくても、コミュニケーションは驚くほどスムーズになります。
独学では限界を感じることもありますが、中国語教室などで専門家の指導を受けるのも上達への近道です。この記事では、中国語の発音システム「ピンイン(拼音)」の根幹である「声調」「母音」「子音」の3大要素をゼロから徹底的に解説し、日本人学習者が特につまずきやすいポイントと、その具体的な練習法をご紹介します。ぜひ、この記事を「発音の教科書」としてご活用ください。
なぜ中国語学習で「発音」が最重要なのか?
多くの語学学習において、発音は「できれば綺麗な方が良い」という位置づけかもしれません。しかし、中国語(特に標準語である「普通話」)において、発音は「必須の土台」です。なぜなら、中国語は「音の言語」であり、音の僅かな違いが全く異なる意味を生み出してしまうからです。
文法や単語が完璧でも「発音」が悪いと通じない現実
例えば、日本語の「雨」と「飴」は、アクセント(音の高低)で意味を区別します。中国語は、この音の高低パターンが全ての音節(漢字一文字)に割り当てられています。これが「声調」です。
有名な例ですが、「māma mà mǎ ma?」という文章があります。ピンインだけ見ると「ma」が続いているだけですが、声調が異なります。
中国語: 妈妈骂马吗? (Māma mà mǎ ma?)
日本語訳: お母さんは馬をののしりますか?
このように、「mā(お母さん)」「mà(ののしる)」「mǎ(馬)」は、声調が違うだけで全く別の単語になります。もし声調を無視して「mama ma ma ma?」と平坦に発音したら、相手は何のことか全く理解できないでしょう。これが、中国語において発音が重要である最大の理由です。
日本人が中国語の発音でつまずく3つの壁
私たち日本人が中国語の発音を特に難しく感じるのには、明確な理由があります。
- 壁1:日本語にない音(そり舌音・有気音など)
中国語には、日本語の「あいうえお」や「かきくけこ」の感覚では捉えきれない音が多数存在します。息を強く出す「有気音」、舌を巻く「そり舌音」、日本語の「う」や「い」とは微妙に口の形が違う母音など、一つ一つを正確に習得する必要があります。 - 壁2:音のメロディー「声調(四声)」
前述の通り、中国語は音節ごとに音の高低(メロディー)が決められています。日本語のアクセントとは根本的に異なるこの「声調」の感覚を掴むのが、最初の大きな関門です。 - 壁3:「ピンイン」という独自ルール
中国語の発音は「ピンイン(拼音)」というアルファベットを使った記号で表されます。しかし、このピンインは英語のローマ字読みとは全く異なります。「q」や「x」、「zh」など、英語の感覚で読むと全く違う音になってしまいます。このピンインのルールを、英語の知識とは切り離して新しく覚える必要があります。
これらの壁は、決して乗り越えられないものではありません。一つ一つのルールを理解し、正しい方法で練習を繰り返せば、必ずマスターできます。まずは、中国語の「音の心臓部」である声調から見ていきましょう。
中国語発音の心臓部!「声調(四声)」を徹底マスター
中国語の発音学習は、声調に始まり声調に終わると言っても過言ではありません。四声(しせい)と呼ばれる4つの主要な音のパターンと、それらを補う「軽声」について学びましょう。
四声とは? 4つのメロディーを音の高さで理解する
声調は、音の高さを5段階で表すと理解しやすくなります。一番低い音を「1」、一番高い音を「5」とします。この「1」から「5」のどの高さを、どのように移動するかで4つの声調が定義されています。
四声の音の高さの軌跡。このメロディーが意味の違いを生みます。
「第一声(だいいっせい)」:高く平らに
- 記号: ¯ (例: mā)
- 音の高さ: 5 → 5
- 特徴: 最も高い「5」の音で始まり、そのまま同じ高さを保ちます。日本語にはない感覚で、意識的に高い音をキープする必要があります。
- コツ: 歌で高い音を伸ばすイメージや、遠くの人に「おーい」と呼びかけるときの最初の「おー」の感じです。
- 例:
- 妈 (mā) – お母さん
- 吃 (chī) – 食べる
- 高 (gāo) – 高い
「第二声(だいにせい)」:一気に上昇
- 記号: ´ (例: má)
- 音の高さ: 3 → 5
- 特徴: 中くらいの高さ「3」から、一気に最も高い「5」まで引き上げます。
- コツ: 日本語で「え?(何て言った?)」と聞き返すときの「え?」の音の上がりに似ています。
- 例:
- 麻 (má) – 麻
- 学 (xué) – 学ぶ
- 来 (lái) – 来る
「第三声(だいさんせい)」:低く抑えてから少し上がる
- 記号: ˇ (例: mǎ)
- 音の高さ: 2 → 1 → 4
- 特徴: やや低い「2」から一番低い「1」まで下げ、そこから「4」まで上げます。最も複雑な動きをする声調です。
- コツ: 日本語の「あぁ(なるほど)」と納得する時の感じに似ていますが、もっと低い音域で「喉の奥で低く抑える」ことを意識するのが重要です。
重要ポイント: 実際の会話では、第三声の後半の「上がる」部分は発音されないことが多いです(特に後ろに他の音節が続く場合)。「低く抑える」だけの「半三声(2→1)」になることがほとんどです。まずは「低く抑える」ことをマスターしましょう。 - 例:
- 马 (mǎ) – 馬
- 好 (hǎo) – 良い
- 我 (wǒ) – 私
「第四声(だいよんせい)」:鋭く下がる
- 記号: ` (例: mà)
- 音の高さ: 5 → 1
- 特徴: 最も高い「5」から、一気に最も低い「1」まで鋭く下げます。
- コツ: 日本語で「カラス」を「カ」を強く言う感覚や、誰かに「こら!」と短く叱る時の「こ!」の音に似ています。短く、強く、鋭く発音するのがポイントです。
- 例:
- 骂 (mà) – ののしる
- 去 (qù) – 行く
- 是 (shì) – です
忘れがちな「軽声(けいせい)」の役割
上記4つの声調の他に、「軽声」と呼ばれる声調があります。これは、ピンインの上に声調記号が付かないもので、短く、軽く、弱く発音されます。
軽声は独立した音の高さを持たず、直前の音節の声調によって高さが決まります。
- 第一声の後:māma (お母さん) → 高い音の後に、やや低く短く「ma」を添える。
- 第二声の後:yéye (おじいさん) → 上がった音の後に、中くらいの高さで短く「ye」を添える。
- 第三声の後:nǎinai (おばあさん) → 低い音の後に、高い位置で短く「nai」を添える。
- 第四声の後:bàba (お父さん) → 下がった音の後に、一番低い位置で短く「ba」を添える。
「〜たち」を意味する 「们 (men)」や、文末の 「吗 (ma)」(〜ですか?)なども軽声です。強く発音しすぎないように注意しましょう。
実践!「mā, má, mǎ, mà」で声調練習
声調の感覚を掴むには、同じ音(例えば “ma”)で四声を発音し分ける練習が効果的です。手を使いながら、音の高さの軌跡をイメージして発音してみましょう。
- 第一声: mā (妈) → (手を水平に動かしながら) マー
(例文: Māma lái le. 妈妈来了。 – お母さんが来ました。)
- 第二声: má (麻) → (手を右斜め上に動かしながら) マー?
(例文: Wǒ shǒu má le. 我手麻了。 – 手が痺れました。)
- 第三声: mǎ (马) → (手をV字に動かしながら) マァ
(例文: Wǒ xǐhuan mǎ. 我喜欢马。 – 私は馬が好きです。)
- 第四声: mà (骂) → (手を右斜め下に振り下ろしながら) マッ!
(例文: Tā zài mà rén. 他在骂人。 – 彼は人をののしっています。)
ピンイン(拼音)完全解説①:全ての音の土台「母音」
声調が音の「メロディー」なら、ピンイン(母音と子音)は音の「音色」そのものです。まずは母音から見ていきましょう。中国語の母音は、日本語の「あいうえお」よりも種類が多く、口の形が非常に重要です。
基本の「単母音」 (a, o, e, i, u, ü)
中国語の全ての母音の基本となるのが、以下の6つ(+α)の単母音です。
- a: 日本語の「ア」よりも口を大きく縦に開けて「アー」と発音します。
- o: 日本語の「オ」よりも唇を丸くすぼめて「オー」と発音します。
- e: 日本語にはない音。口を半開きにし、「エ」と「オ」の中間のような、喉の奥から「ウオ」と曖昧に発音するイメージです。
- i: 日本語の「イ」よりも口を強く横に引いて「イー」と発音します。
- u: 日本語の「ウ」よりも唇を強く丸めて前に突き出し、「ウー」と発音します。
- ü: 最重要!日本語にはない音。「イ」の口の形(口を横に引く)を保ったまま、「ウ」と言おうとする音です。口笛を吹くときのように唇をすぼめて「イュー」と発音します。
- er: 単母音ではありませんが、独立した音節として使われる「アル化」の基本の音。「e」を発音しながら舌を巻きます。
日本人が特に苦手な「e」「u」「ü」の発音のコツ
特に 「e」「u」「ü」は日本語の「え」「う」とは全く異なるため、意識的な練習が必要です。
「e」の練習:
「歌」を意味する 「歌 (gē)」や「飲む」を意味する 「喝 (hē)」で練習します。日本語の「ゲ」や「ヘ」とは全く違う、喉の奥から出す曖昧な「グォ」「フオ」のような音を意識してください。
(例文: Wǒ hē kāfēi. 我喝咖啡。 – 私はコーヒーを飲みます。)
「u」の練習:
日本語の「ウ」は唇を丸めませんが、中国語の 「u」は唇をタコの口のようにすぼめます。「ない」を意味する 「不 (bù)」や「本」を意味する 「书 (shū)」で練習しましょう。
(例文: Wǒ bù kàn shū. 我不看书。 – 私は本を読みません。)
「ü」の練習:
「ü」(ウムラウト)は、ピンイン入力では「v」で代用されます。「行く」の 「去 (qù)」、「学ぶ」の 「学 (xué)」、「女性」の 「女 (nǚ)」など、重要単語で多用されます。「イ」の口で「ウ」と発音する練習を繰り返しましょう。
注意点: j, q, x の後ろに来る「u」は、必ず「ü」の音になります。(ルール上、「ü」の上の点が省略されるため)
例: qù (行く) は「チュイ」ではなく「チイー」の口で「ウ」と言う音。
(例文: Wǒ qù xuéxiào. 我去学校。 – 私は学校へ行きます。)
音の変化「複合母音」 (ai, ei, ao, ou など)
単母音を組み合わせたものが複合母音です。日本語の「愛(あい)」のように、前の音から後ろの音へ滑らかに変化させます。
- ai: 「ア」を強く、「イ」を弱く。「愛 (ài)」
- ei: 「エ」を強く、「イ」を弱く。「誰 (shéi)」
- ao: 「ア」を強く、「オ」を弱く。「高 (gāo)」
- ou: 「オ」を強く、「ウ」を弱く。「口 (kǒu)」
- ia: 「イ」から「ア」へ。「家 (jiā)」
- ie: 「イ」から「エ」へ。「姐 (jiě)」
- ua: 「ウ」から「ア」へ。「花 (huā)」
- uo: 「ウ」から「オ」へ。「我 (wǒ)」
- üe: 「ü」から「e」へ。「月 (yuè)」
- iao: 「イ→ア→オ」。「小 (xiǎo)」
- iou (iu): 「イ→オ→ウ」。(jiǔ – 九)
- uai (uai): 「ウ→ア→イ」。「快 (kuài)」
- uei (ui): 「ウ→エ→イ」。「水 (shuǐ)」
注意: iou や uei は、子音と組み合わさる時に iu, ui と表記が省略されますが、発音は「iou」「uei」のままです。
例: 「水 (shuǐ)」は「シュイ」ではなく「シュエイ」と発音します。
鼻に響かせる「鼻母音」 (an, en, ang, eng など)
日本語の「ん」に相当する音ですが、中国語では「舌先を使う -n」と「喉の奥を使う -ng」の2種類を明確に区別します。
1. 舌先母音 (-n)
発音の最後に、舌先を上の歯茎の裏にしっかりつけて「ン」と発音します。日本語の「案内(アンナイ)」の「ン」に近いです。
- an: 看 (kàn – 見る)
- en: 很 (hěn – とても)
- in: 心 (xīn – 心)
- ian: 钱 (qián – お金)
- uan: 晚 (wǎn – 遅い)
- üan: 远 (yuǎn – 遠い)
2. 喉奥母音 (-ng)
発音の最後に、舌先はどこにもつけず、喉の奥(軟口蓋)を閉じて鼻から息を抜きます。日本語の「案外(アンガイ)」の「ン」や、英語の “singing” の “ng” に近いです。
- ang: 忙 (máng – 忙しい)
- eng: 冷 (lěng – 寒い)
- ing: 名 (míng – 名前)
- ong: 中 (zhōng – 中)
- iang: 想 (xiǎng – したい)
- uang: 床 (chuáng – ベッド)
- ueng: 翁 (wēng)
「an」と「ang」、「en」と「eng」は、日本人にとって区別が難しいですが、中国語では全く違う音として認識されます。意味も変わってしまうため(例: fàn – ご飯 vs fáng – 部屋)、舌先の位置を意識して練習しましょう。
例文で練習する母音
様々な母音を使った例文で、実際の音を確認してみましょう。
中国語: 今天天气很好,我们去公园玩儿吧。
(Jīntiān tiānqì hěn hǎo, wǒmen qù gōngyuán wánr ba.)
日本語訳: 今日は天気がとても良いので、私たちは公園に遊びに行きましょう。
- Jīntiān (in, ian): 舌先 -n
- tiānqì (ian, i): 複合母音
- hěn hǎo (en, ao): 鼻母音 -n と複合母音
- wǒmen (uo, en): 複合母音と鼻母音
- qù (ü): j,q,x の後のu = ü
- gōngyuán (ong, üan): 喉奥 -ng と üan
ピンイン(拼音)完全解説②:日本語にない音の壁「子音」
中国語の子音は21種類あります。日本語のカ行(k)やサ行(s)と似ている音もありますが、多くは「息の使い方」や「舌の位置」が日本語とは根本的に異なります。
息の強弱が鍵!「無気音」と「有気音」 (b/p, d/t, g/k)
日本人が最初につまずくのがこの区別です。日本語は「清音(か)」と「濁音(が)」で区別しますが、中国語は「息を出すか、出さないか」で区別します。
- 無気音 (息を出さない): b, d, g
→ 日本語の「バ行」「ダ行」「ガ行」ではなく、息を破裂させない「パ行」「タ行」「カ行」のイメージです。 - 有気音 (息を強く出す): p, t, k
→ 息が「プッ!」「トゥッ!」「クッ!」と強く出る音です。
有気音(p)はティッシュが揺れ、無気音(b)は揺れない。この差が重要です。
練習法: ティッシュ・テスト
口の前にティッシュペーパーを1枚垂らします。
・有気音 (p, t, k) を発音した時:ティッシュが激しく揺れれば正解。
・無気音 (b, d, g) を発音した時:ティッシュが全く揺れなければ正解。
例: bà (爸 – 父) [揺れない] vs pà (怕 – 恐れる) [揺れる]
最難関! 舌を巻く「そり舌音」 (zh, ch, sh, r)
日本語には全くない音で、多くの学習者が挫折するポイントです。これらは全て「舌先を上の歯茎の奥(硬口蓋)に向かって反り上げ、息を出す」ことで発音します。
そり舌音は、舌先をこのように反り上げることがポイントです。
- zh: そり舌の「無気音」。舌を巻いて「ヂュ」。(例: zhōng (中))
- ch: そり舌の「有気音」。舌を巻いて息を強く「チュッ!」。(例: chī (吃 – 食べる))
- sh: そり舌の「摩擦音」。舌を巻いて「シュ」。(例: shì (是 – です))
- r: そり舌の「摩擦音」。舌を巻いて「ル」。(例: rì (日 – 日))
コツ: 無理に舌を巻こうとせず、舌先を上の歯茎につけた状態から、そのまま奥へ滑らせていくと感覚が掴みやすいです。「是 (shì)」がうまく言えない人は、まず「シュ」と言ってから、そのまま舌だけを奥に引いていく練習をしてみてください。
舌の位置が重要「舌面音」 (j, q, x)
これら3つは、舌の「面」(真ん中あたり)を硬口蓋(上あごの中央)に近づけて息を通す音です。母音は i もしくは ü(の仲間)しか続きません。
- j: 無気音。日本語の「ジ」ではなく「ヂ(チ)」に近い。「イ」の口で「ヂ」。(例: jiā (家))
- q: 有気音。「イ」の口で息を強く「チッ!」。(例: qù (去))
- x: 摩擦音。「イ」の口で「シ」。(例: xièxie (谢谢 – ありがとう))
舌先の音「舌歯音」 (z, c, s)
これら3つは、舌先を「上の歯の裏側」に近づけて息を通す音です。そり舌音 (zh, ch, sh) との区別が非常に重要です。
- z: 無気音。舌先を上の歯裏につけて「ズ(ツ)」。(例: zài (在 – ある))
- c: 有気音。舌先を上の歯裏につけ、息を強く「ツッ!」。(例: cài (菜 – 料理))
- s: 摩擦音。舌先を上の歯裏に近づけ「ス」。(例: sì (四 – 4))
最重要:そり舌音 vs 舌歯音
shì (是 – です) [そり舌] vs sì (四 – 4) [舌先]
zhī (知 – 知る) [そり舌] vs zì (字 – 字) [舌先]
chī (吃 – 食べる) [そり舌] vs cí (词 – 単語) [舌先]
この区別ができないと、「私は40歳です (Wǒ sìshí suì)」が「私は死にそうです (Wǒ sǐshí suì)」に聞こえてしまう…といったことが起こり得ます。
その他の子音 (f, h, l, m, n)
これらは比較的日本語の感覚に近いですが、注意点があります。
- f: 英語の “f” と同じ。上の歯で下唇を軽く噛んで「フ」。(例: fàn (饭 – ご飯))
- h: 日本語の「ハ」より喉の奥で摩擦させる「ハ」。そり舌音の「喝 (hē)」など。
- l: 英語の “l” と同じ。舌先を上の歯茎にしっかりつけて「ラ」。(例: lái (来 – 来る))
- m: 日本語の「マ」と同じ。(例: māma (妈妈))
- n: 日本語の「ナ」と同じ。(例: nǐ (你 – あなた))
例文で練習する子音
子音の区別を意識しながら、早口言葉(绕口令)に挑戦してみましょう。
中国語 (s vs sh): 四是四,十是十,十四是十四,四十是四十。
(Sì shì sì, shí shì shí, shísì shì shísì, sìshí shì sìshí.)
日本語訳: 4は4、10は10、14は14、40は40。
→ この有名な早口言葉は、舌先の sì とそり舌の shí を交互に発音する最高の練習になります。
中国語 (b vs p): 八百标兵奔北坡,炮兵并排北边跑。
(Bābǎi biāobīng bèn běi pō, pàobīng bìngpái běi biān pǎo.)
日本語訳: 800の標兵が北の坂へ駆け、砲兵が並んで北側を走る。
→ 無気音の b と有気音の p を正確に発音し分ける練習です。
発音が滑らかになる!必須の「声調変化(変調)」ルール
ピンインと声調を個別に覚えても、実際の会話では「音の連結」によって声調が変化する現象(変調)が起こります。これはルールとして決まっており、知らないと聞き取りも発音も不自然になります。最低限、以下の3つは必ずマスターしましょう。
ルール1:最も重要!「第三声」が続く場合 (例:你好)
中国語で最も頻繁に起こる変調です。
ルール: 第三声 + 第三声 → 「第二声」+ 第三声
第三声(低く抑える音)を2回続けるのは発音しにくいため、前の第三声が自動的に第二声(上がる音)に変化します。
例: 你好 (こんにちは)
nǐ (三声) + hǎo (三声) → 実際の発音は ní hǎo (二声 + 三声)
「ニーハオ」とカタカナで書かれますが、正確には「ニィ(上がる)ハァオ(低く抑える)」という発音です。ピンインの表記(声調記号)は nǐ hǎo のまま変わらない点に注意してください。
その他の例:
- Wǒ hěn hǎo (私は元気です) → Wǒ (三声) + hěn (三声) + hǎo (三声)
→ Wó hén hǎo (二声 + 二声 + 三声) となります。 - kěyǐ (~してもよい) → kéyǐ
- shuǐguǒ (果物) → shuíguǒ
ルール2:「不 (bù)」の変調ルール
否定を表す「不」は、もともと第四声(鋭く下がる)ですが、後ろに来る音節の声調によって変化します。
ルール: 「不 (bù)」 + 第四声 → 「第二声 (bú)」+ 第四声
第四声(下がる)を2回続けると発音しにくいため、前の「不」が第二声(上がる)に変化します。
例: 不是 (~ではない)
bù (四声) + shì (四声) → 実際の発音は bú shì (二声 + 四声)
その他の例:
- 後ろが第一声・第二声・第三声の場合:変化なし(第四声のまま)
- bù chī (食べない) [四声 + 一声]
- bù máng (忙しくない) [四声 + 二声]
- bù hǎo (良くない) [四声 + 三声]
- 後ろが第四声の場合:第二声に変化
- bú qù (行かない) [二声 + 四声]
- bú kàn (見ない) [二声 + 四声]
ルール3:「一 (yī)」の変調ルール
数字の「1」を表す「一」は、もともと第一声(高く平ら)ですが、非常に複雑な変調をします。
ルール(A): 「一 (yī)」 + 第四声 → 「第二声 (yí)」+ 第四声
ルール(B): 「一 (yī)」 + 第一声・第二声・第三声 → 「第四声 (yì)」+ 各声調
ルール(C): 単独で使う、または序数(一番目)の場合 → 「第一声 (yī)」のまま
例 (A):
- yī + gè (四声) → yí gè (一個)
- yī + yàng (四声) → yí yàng (同じ)
例 (B):
- yī + tiān (一声) → yì tiān (一日)
- yī + nián (二声) → yì nián (一年)
- yī + qǐ (三声) → yì qǐ (一緒に)
例 (C):
- dì yī (第一、一番目) → yī (一声)のまま
- shí yī (十一) → yī (一声)のまま
これらの変調ルールは、最初は複雑に感じるかもしれませんが、会話の中で自然に身についていくものです。「你好」が「二声+三声」になることだけは、最初に必ず覚えてください。
独学でも可能!発音をネイティブに近づける具体的な練習法
中国語の発音は、知識として「知っている」だけでは不十分で、「できる」ようになるための反復練習が不可欠です。ここでは、独学でも効果的な練習法をいくつかご紹介します。
TIPS1:鏡を使って口の形を徹底的に「見る」
発音は「音」であると同時に「口の形」と「舌の位置」の運動です。特に、日本語にない 「ü」(唇をすぼめる)や 「f」(上の歯で下唇を噛む)、「o」(唇を丸める)などは、自分の口の形が正しいか鏡でチェックしながら練習しましょう。ネイティブの発音動画を見て、口の動きを真似るのも非常に効果的です。
TIPS2:自分の声を「録音」して客観的に聞く
自分では「できているつもり」でも、客観的に聞くと全く違う音になっていることはよくあります。これは、自分の声が骨伝導で聞こえているためです。
スマートフォンの録音機能を使って、「お手本の音声」→「自分の発音」→「もう一度お手本の音声」の順で録音し、聴き比べてみてください。どこが違うのか(声調が高いか低いか、息が足りないか、舌が巻けていないか)を具体的に分析し、修正していくことが上達の最短ルートです。
TIPS3:最強の練習法「シャドーイング」
シャドーイングは、お手本の音声を(0.5〜1秒ほど)影(shadow)のように追いかけて発音する練習法です。テキストは見ずに、耳から入ってきた音をそのまま真似します。
これにより、個々の音だけでなく、声調の流れ、リズム、イントネーション、変調など、中国語の「音の繋がり方」を体全体で覚えることができます。最初はゆっくりとした教材から始め、徐々にネイティブの会話スピードに挑戦していきましょう。
TIPS4:発音矯正アプリや教材の活用
最近では、AIが発音を採点してくれるアプリや、ピンイン学習に特化した教材が多数あります。声調の軌跡を視覚的に表示してくれたり、苦手な音を集中
的に練習できたりする機能は、独学者の強い味方になります。
(発展)多音字について
この記事では発音の基礎を解説してきましたが、中国語学習が進むと「多音字(duōyīnzì)」という壁にぶつかります。これは、一つの漢字が複数の発音と意味を持つものです。
例えば、参考元原稿でも触れられていた「重」という字です。
- zhòng (第四声): 「重い」という意味の場合。(例: 很重 hěn zhòng – とても重い)
- chóng (第二声): 「重なる、再び」という意味の場合。(例: 重复 chóngfù – 重複する)
地名の「重慶」は、「喜びが重なる」という由来から Chóngqìng (第二声) と読みます。「重い」という意味ではないため、Zhòngqìng (第四声) と読むと間違いになります。
このような多音字は、まずは基本の発音(声調、母音、子音)をしっかりマスターした上で、単語ごと、文脈ごとに覚えていく必要があります。
まとめ:正しい発音を身につけて、伝わる中国語を目指そう
中国語の発音学習は、日本語の音韻体系とかけ離れているため、非常に難しく、時間のかかる作業です。特に「そり舌音」や「声調」は、一朝一夕には身につきません。
しかし、発音はスポーツのフォーム練習に似ています。正しい知識(フォーム)を学び、毎日少しずつでも鏡を見て、音を聞き、口を動かす練習を続ければ、必ず上達します。
発音が綺麗になると、自分の中国語に自信が持てるようになります。自信が持てると、もっと話したくなります。そして、話せば話すほど、相手に伝わる喜びが、さらなる学習のモチベーションに繋がります。
この記事で紹介したピンイン(声調・母音・子音)の基礎と練習法を参考に、ぜひ「伝わる中国語」の土台を築き上げてください。
