【日中比較】中国の会社役職名、その意味と実態は?「经理=社長」?肩書インフレと転職事情まで解説
中国のビジネスシーンで戸惑うことの一つに、会社における役職名の違いがあります。日本語と同じ漢字でも意味が全く異なるケースや、日本ではあまり見られない肩書の使われ方があるのです。今回は、中国の会社でよく使われる役職名の意味や、その背景にある文化・実態について詳しくご紹介します。
目次
要注意!日本と意味が違う中国の役職名
まず、日本語の知識が逆に誤解を招きやすい、注意すべき役職名を見ていきましょう。
「经理 (jīnglǐ)」は経理じゃない?実は会社のトップ!
次の中国語を見てください。「经理 (jīnglǐ)」。日本語にも「経理」という職種がありますが、これは典型的な引っかけ問題です。
中国語の「经理」は、部署のマネージャーを指すこともありますが、文脈によっては「社長」「支配人」「経営者」など、組織のトップマネジメント層を指すことが多いのです。さらに、「总经理 (zǒng jīnglǐ)」となると、「総経理」「社長」「最高経営責任者(CEO)」といった、より高い地位を示すのが一般的です。

(「总经理」と書かれた中国の名刺)
ですから、例えば誰かが
他是我们公司的经理 (Tā shì wǒmen gōngsī de jīnglǐ)
(彼がわが社の社長です / 彼がわが社のマネージャーです)
と紹介されたとき、「ああ、経理担当の人か」と勘違いして失礼な態度を取らないよう、注意が必要です。相手の地位を確認することが大切です。
「科长 (kēzhǎng)」は係長じゃなく課長クラス?
もう一つ、誤解しやすいのが「科长 (kēzhǎng)」です。これも日本語の「係長」とそのまま解釈してはいけません。中国の組織における「科」は、日本の「課」に相当することが多く、「科长」は一般的に日本の「課長」クラスの役職を指します。
日本語の「経理」「取締役」「係長」は何て言う?
ちなみに、日本語の役職に対応する中国語は以下のようになります。
- 経理:会计 (kuàijì)
- 取締役会長・会長:董事长 (dǒngshìzhǎng)
- 取締役:董事 (dǒngshì)
- 係長:股长 (gǔzhǎng) (※ただし、この役職はあまり一般的ではない場合もあります)
例えば、「彼は係長になったばかりだ」と言いたい場合は、
他刚升任股长 (Tā gāng shēngrèn gǔzhǎng)
となります。「刚 (gāng)」は、「~したばかりだ」という意味を表します。
「股 (gǔ)」がつく会社名は「株式会社」?
係長クラスを指す「股长」の「股 (gǔ)」という字には、日本語の「股(また)」の意味のほかに、「株(株式)」という意味もあります。これは非常に興味深い点です。
中国語の「股」には「株」の意味がある
そのため、
- 股份公司 (gǔfèn gōngsī):株式会社
- 股票 (gǔpiào):株券、株式
という意味になります。取引先の会社名が「〇〇股份公司」となっていても、「股(また)に関係する会社?」などと戸惑わないようにしましょう。
なぜ?中国で横行する「役職名インフレ」の実態
中国のビジネスシーンでは、時に役職名が実態以上に高く設定される「役職名インフレ」とも言える現象が見られます。重慶市のある新聞には、「従業員20人足らずの会社で、10人の総経理」という見出しの記事が掲載されたこともあるほどです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
「社員全員、役職付き?」驚きの求人体験談
ある就職活動中の大学生、楊さんの体験談です。彼がルームメイト数人と面接に臨んだのは、ある照明器具会社。募集されていた役職名は「プロジェクト総管理」という立派なものでした。仕事経験のない新卒にこんな高い役職が与えられるのかと、彼らは驚きと喜びを感じ、一生懸命準備して面接に臨みました。

(中国の求人広告がたくさん貼られた掲示板)
ところが、実際に会社を訪れてみると、面接官から秘書、お茶くみをする事務員に至るまで、社員同士が互いを「老总 (lǎo zǒng)」(社長や総経理など、トップ層を指す敬称)と呼び合っているのです。「人材資源総監督」「行政総監督」「〇〇総経理」といった肩書を持つ人が多数おり、まさに「従業員20人足らずで10人の総経理」状態でした。
楊さんが応募した「プロジェクト総管理」も名ばかりで、実際の職務は照明器具の販売員だったそうです。彼は、「最初はこうした役職名に惑わされたが、あまりにも偽の役職名が氾濫しているので、今では『〇〇総経理』と書かれていても簡単には信じなくなった」と語っています。
中国人はなぜ肩書を重視するのか?アンケート結果から見る意識
前述の新聞記事では、重慶市民1780名を対象にしたアンケート結果も報告されています。
- 72%が、こうした実態と異なる高い役職名に接した経験がある。
- 94%が、偽の役職名が横行していると感じている。
- 71%が、「自分の周りの多くの人が肩書を重視している」と回答。
- 25%は、「自分自身も人と交際する際に肩書を重視してしまっている」と回答。
- 43%は、「肩書がなければ人から尊重してもらえない」と感じている。
これらの結果から、中国社会において肩書がいかに重要視されているかがうかがえます。
役職名が乱発される背景と企業の思惑
では、なぜ企業は実態と異なる高い役職名をつけたがるのでしょうか?アンケートでは、その理由について以下のような回答がありました。
- 20%:「顧客から一目置かれ、信頼を得やすいから」
- 12%:「社員のモチベーションを高め、会社に引き留めておけるから」
高い肩書を与えることで、対外的な信用度を高めたり、社員の自尊心を満たして定着率を上げたりする狙いがあるようです。しかし一方で、形だけの肩書が「販売促進に貢献する」と考える人はわずか8%、「社員のやる気と責任感につながる」と考える人も7%にとどまっており、その効果を疑問視する声も多いことがわかります。
求人情報 (招聘) に潜むワナ?役職名と実際の能力
企業や商店が求人を出すことを中国語で「招聘 (zhāo pìn)」、それに応募することを「应聘 (yìng pìn)」と言います。求人ポスターは「招聘海报 (zhāo pìn hǎi bào)」です。
例えば、ある求人ポスターに、学歴要件が「大学专科 (dàxué zhuānkē)」(短大卒程度)以上、2年以上の類似業務経験者、と書かれていたとします。募集職種は、財務管理顧問「理财顾问 (lǐcái gùwèn)」が5名、運営総責任者「运营总监 (yùnyíng zǒngjiān)」が3名、ネットカスタマーサービス・出納業務「网络客服、出纳 (wǎngluò kèfú, chūnà)」が各1名、といった具合です。
ポスターを見る限りでは投資会社のようですが、新しく雇われたばかりで5名が顧問、3名が総責任者というのは驚きです。社員は役職名を記載したネームプレートをつけて仕事をするため、一般の顧客はまさか新入社員だとは思わないでしょう。
高い役職名=高い能力が必要?応募 (应聘) 前の注意点
このような状況があるため、求職者側も求人情報に記載された役職名を鵜呑みにせず、実際の業務内容や求められる能力を確認する必要があります。ネット上では、次のような疑問が交わされていました。
求職者A:求人情報に書かれている役職説明は、応募者が現時点で備えているべき能力や、入社後すぐに担当する業務内容を指すのですか?それとも、現時点ではその能力がなくてもよく、入社後の研修で身につければよいということですか?
(Gōngsī zhāopìn xìnxī shàng de zhíwèi miáoshù shì zhǐ yāoqiú yìngpìnzhě mùqián xūyào jùbèi de nénglì hé rùzhí hòu lìjí xūyào de gōngzuò nèiróng, háishi miáoshù mùqián shàngbù jùbèi yě xíng, yāoqiú rùzhí hòu tōngguò péixùn zhǎngwò zhèxiē nénglì?)回答者B:求人情報は、応募者にそのポジションの仕事の性質や内容を理解してもらうためのものです。応募者が事前にその能力を備えている必要があるかどうかは、応募先の企業の要求次第です。
(Zhāopìn xìnxī jiù shì ràng yìngpìnzhě liǎojiě yīxià zhège gǎngwèi de gōngzuò xìngzhì jí gōngzuò nèiróng děng, dànshì xū bu xūyào yìngpìnzhě jùbèi zhèxiē nénglì, hái yào kàn yìngpìn dānwèi de xūqiú.)
実力主義は浸透している?ネット上の議論から見える変化
このような質疑応答が見られること自体、単なる肩書だけでは通用せず、実際の能力が問われるという実力主義の考え方が、中国社会にも徐々に浸透し始めている表れかもしれません。見かけ上の役職名に惑わされず、自身のスキルや経験を客観的に評価し、仕事内容をしっかり確認する姿勢が重要になっています。

肩書だけでなく実力が問われる時代へ
中国語の「役職」「職務」「持ち場」の使い分け
中国語には、「役職」や「職務」に関連する似たような言葉がいくつかあります。それぞれのニュアンスの違いを理解しておきましょう。
「职位 (zhíwèi)」とは? – 組織上の地位
日本語の「役職」に最も近いのが「职位 (zhíwèi)」です。これは、組織の構造の中で定められた職務上の地位や役割を指します。例えば、「社長」「部長」「秘書」などは「职位」にあたります。通常、階級があり、給与レベルとも関連します。
A:小刘的职位是什么? (Xiǎo Liú de zhíwèi shì shénme?)
(劉さんの役職は何ですか?)B:小刘的职位是财务主任。(Xiǎo Liú de zhíwèi shì cáiwù zhǔrèn.)
(劉さんの役職は財務主任です。)
「岗位 (gǎngwèi)」とは? – 仕事内容に応じた持ち場
「岗位 (gǎngwèi)」は、元々軍隊の見張り場所などを指す言葉でしたが、転じて、具体的な仕事内容によって定められた「持ち場」や「ポスト」を意味します。役職(职位)とは異なり、特定の業務を担当する場所や役割を指すニュアンスが強いです。「经理(社長/マネージャー)」を「岗位」とはあまり言いませんが、「秘書」は「职位」であり、その仕事内容は「岗位」とも言えます。
例えば、交通整理をする警察官の交差点での立ち位置や、工場のライン作業員の担当工程などが「岗位」にあたります。
「职务 (zhíwù)」と「职责 (zhízé)」- 職務内容と責任
「职务 (zhíwù)」は、担当する「職務」や「任務」そのものを指します。日中辞典で「役職」を引くと「职务」が出てくることがありますが、中日辞典で「职务」を引くと「職務」と出るように、日本語の「職務」に近い意味合いです。ただし、文脈によっては「役職 (职位)」と同じように使われることもあります。
「职责 (zhízé)」は、その職務や持ち場に伴う「職責」「責任」を意味します。
不管天气多么恶劣,我都要站在自己的岗位上,这是我的职责。
(Bùguǎn tiānqì duōme èliè, wǒ dōu yào zhàn zài zìjǐ de gǎngwèi shàng, zhè shì wǒ de zhízé.)(天気がどれほど悪くても、私は自分の持ち場に立たなければならない。これが私の職責だ。)
中国ならではの「职务」事例
中国のスーパーマーケットでは、エスカレーターの降り口に店員が立ち、買い物客のカートが段差に引っかからないように手助けをしたり、エレベーターに常駐して行き先階のボタンを押したりする「职务」を見かけることがあります。日本ではあまり見られない光景ですが、これも彼らにとっての「职务」であり「岗位」なのです。

中国のスーパーやデパートで見られる光景
「やりがい」を求めて当たり前?中国の転職 (跳槽) 事情
中国では、より良い待遇やキャリアアップ、仕事のやりがいを求めて転職(跳槽: tiàocáo)することが、日本に比べて一般的です。特に若い世代では、数年ごとに会社を変えることも珍しくありません。
なぜ中国人は頻繁に転職するのか?
転職理由としては、給与や福利厚生への不満、キャリアアップの機会、より挑戦的な仕事への意欲、人間関係など様々ですが、「現在の仕事はつまらない(无聊: wúliáo)」「今の役職(职位)に満足していない」といった、仕事のやりがいや自己実現を求める声も多く聞かれます。
A:你想跳槽? (Nǐ xiǎng tiàocáo?)
(あなた、転職するつもりなの?)B:是。现在的工作特别无聊,我不满足现在的职位,我是能担当重任的人。
(Shì. Xiànzài de gōngzuò tèbié wúliáo, wǒ bù mǎnzú xiànzài de zhíwèi, wǒ shì néng dāndāng zhòngrèn de rén.)
(そうよ。今の仕事は本当につまらないし、今の役職にも満足していないの。私はもっと重要な責任を担える人間よ。)
また、ある会社で基礎的な業務や技術を習得した後、より良い条件の会社に移ったり、あるいは独立して自分で会社を興したりするケースも少なくありません。
日本企業が注意すべき点
日本人駐在員や日系企業からは、「中国人社員をようやく育てたと思ったら、すぐに辞めてしまう」という悩みをよく聞きます。これは、日本的な終身雇用や年功序列の考え方とは異なり、個人がキャリアアップや自己実現のために積極的に転職を選択するという、中国の労働市場の流動性の高さや価値観の違いが背景にあると考えられます。社員の定着率を高めるためには、給与や待遇だけでなく、仕事のやりがいやキャリアパスの提示、良好なコミュニケーションなどがより重要になります。
まとめ:肩書文化を理解し、円滑なビジネスコミュニケーションを
今回は、中国の会社における役職名の意味の違い、役職名インフレの実態、関連する中国語の使い分け、そして転職事情について解説しました。
「经理」や「科长」といった紛らわしい役職名、肩書を重視する文化、そして実力主義と流動性の高い労働市場。これらを理解することは、中国でビジネスを行う上で、また中国の人々とコミュニケーションをとる上で非常に重要です。肩書に対する日中の認識の違いを念頭に置き、相手の立場や状況をよく確認しながら、円滑な関係を築いていきましょう。