“老婆”から”夫妻”まで:中国語における夫婦の呼び名

    1. 中国語勉強

    中国語で自分の奥さんのことを「老婆」といいます。日本語も漢字を用いる言語なので、この漢字を見た人は、なぜこの字を用いるのだろうかと不思議に思うかもしれません。

    今回は、中国語で夫が妻を老婆と呼ぶのはなぜなのか調べてみましょう。

    “老婆”から”夫妻”まで:中国語における夫婦の呼び名

    中国語での夫婦の呼び方の不思議

    夫が妻を呼ぶ呼び方にはいくつかありますが、中でも「老婆」(lǎo po)は一般的によく用いられています。中国では夫は妻が若くても「老婆」と呼びかけます。

    結婚したばかりの若い妻を「老婆」と呼ぶことに多くの日本人は抵抗を感じます。たとえ年を重ねたとしても、日本人の妻にとって夫から「老婆」と呼ばれるのは良い気持ちはしないでしょう。

    「老」と「婆」の日本語の意味

    「老」という漢字は日本語では「年をとってふける、おいる、年寄り、物事に通じている年長者」などの意味があります。いずれも年をとることと関係があり、若い人に対して用いられる言葉ではありません。

    「婆」という漢字の日本語の意味は「年老いた女、老女を罵って言う言葉」という意味で、やはり良い印象はありません。

    「老」と「婆」の中国語の意味

    中国語の「」という語の意味を見てみましょう。「老いている、古い、かなり時間がたっている、盛りを過ぎている」などの意味になっており、こちらも長い時間の経過と関連があります。

    では、中国語の「」という漢字には日本語とは別の特別な意味があるのでしょうか?こちらも「老女、おばあさん」などの意味合いで、やはり年を重ねた女性に用いられるようです。

    では、なぜ中国では妻のことを「老婆」と呼ぶのでしょうか?私も中国語を学び始めた頃は、絶対に自分の妻のことを「老婆」とは呼ぶまいと思っていたのですが、この言葉が使用される理由を知り、印象が全く変わりました。

    実は「老婆」という言葉が用いられるようになったのには深い理由があるのです。

    中国の若い夫婦

    「老婆」という言葉の起源

    中国でも昔は「老婆」という言葉を高齢の女性を指して用いていました。

    また男性の地位によって妻を呼ぶ言葉はそれぞれ異なっていました。例えば、皇帝は妻を「梓童」(zǐ tóng)、宰相は「夫人」(fū rén)と呼んでいたのです。

    昔の呼び方とその変遷

    北宋時代の貴族「王诜」(wáng shēn)の詩の一節に「ずっと家事一切をつかさどっている妻」を「老婆」と表現しているくだりがあります。それがきっかけで、それ以来自分の妻を「老婆」と呼ぶようになったとのこと。

    妻を「老婆」、夫を「老公」(lǎo gōng)とセットで呼ぶ呼び方には「相濡以沫」(xiāng rú yǐ mò)「困難に面しても互いに力を合わせて助け合い」、「恩爱长久」(ēn ài cháng jiǔ)「夫婦仲睦まじくいつまでも」の意味が含まれています。

    では、どのようにしてこの呼び方が中国全土で受け入れられるようになったのでしょうか?

    唐時代の夫婦の物語

    それには唐時代のある夫婦の物語が関わっています。

    【貧しい家の男性「麦爱新」の物語】

    貧しい家の生まれの「麦爱新」(mài  ài xīn)という名の男性がおりました。貧しさから抜け出すために、何とか科挙に合格しようと日夜励んでおりました。

    ~科挙について~

    科挙とは、かつての中国で行われていた官吏登用試験及び上級公務員試験のことです。隋の文帝が583年にスタートさせ1904年の清末に廃止されました。とても難しい試験で、ある時期には合格率が3%であったといわれています。これは日本の司法試験レベルの難しさです。

    ちなみに現在の中国の「高考」(gāo kǎo)(高等教育試験、日本でいう大学センター試験) は現代の「科挙」といわれ、非常に重視されています。

    この「高考」を筆頭とする現代中国の厳しい競争が、後に結婚率の大幅な減少に繋がるのですが、この点については下記の記事をご参照ください。

    【麦爱新の賢い妻】

    彼には気立てがよく、しっかり家事を切り盛りしてくれる賢い妻がおり、そうした困難な日々をずっと支えてくれていました。

    のちに、努力の甲斐あって麦爱新はかなりいい成績で科挙に合格できました。すると、とたんにこれまでの貧しさとは打って変わって生活が変化し始めました。豊かさは人の心も変えていくものです。麦爱新も何か自分がひとかどの人物になったような気がしたのでしょう。

    しかも当時の封建社会では「男子可以三妻四妾」(nán zǐ kě yǐ sān qī sì qiè )「男は妻や妾の三、四人くらいはいても構わないという意味」といわれていましたから、当時の習慣からすると、あながち彼だけが特別悪いというわけでもありません。

    でも、落ち着いて長年連れ添っている妻を見ると、年と共に美しさに陰りが出始め、老いてきているのは否めません。麦爱新は「そうだ!もっと若くてきれいな新しいお嫁さんをもらおう!」と考え始めたのです。

    さすがに直接それを口にするのははばかられ、麦爱新はその考えを対句の上の句としてしたためました。

    hé bài lián cán,luò yè guī gēn chéng lǎo ǒu。

    荷 败 莲 残,落 叶 归 根 成 老 藕。

    ハスの花が枯れ、葉が落ちると根は大きなレンコンになっていく。

    それを見せられた妻は一瞬で夫の心を知りました。妻の心に複雑な感情が沸き上がります。悲しみ、怒り、落胆、失意、口惜しさ…「夫と家族が一番大変な時期をずっと支えてきたのは私なのに」

    【妻の見事な対句の答え】

    ところが妻は取り乱すことなく筆を取り、さらさらとこれに対応する対句をしたためました。

    hé huáng dào shú,chū kāng jiàn mǐ xiàn xīn liáng。

    禾 黄 稻 熟,吹 糠 见 米 现 新 粮。

    稲が黄色く熟したなら、糠を吹き飛ばせば中から新米が現れる。

    「あなたがそうなさりたいなら、どうぞお心のままに」妻は自分を玄米の籾や糠に例え、風で吹き飛ばせば精米された白い米、つまり若く新しい妻を得られると返したのです。

    瞬時に自分の対句の意図を悟り「荷莲」(hé lián)に対して「禾稻」(hé dào)、「老藕」(lǎo ǒu)に対して「新粮」(xīn liáng)を使って絶妙な返しの句をしたためた妻の文才と度量の広さに麦爱新は衝撃を受けました。そして妻の変わらぬ愛に感動し、深く反省したのでした。

    反省して考えを改め、自分への情を思い出してくれた夫を見て妻は別の対句を書きました。

    lǎo gōng shí fēn gōng dào。

    老公 十分 公道 。

    夫はとても正義感があるわ。

    それを見て夫も返しの句をしたためました。

    lǎo po yí piàn pó xīn。

    老婆 一片婆心。

    妻は思いやりにあふれている。

    公道」は「公正な道理」という意味があり、「婆心」は「優しい心がある」という意味があります。この「婆心」を用いた成語もあります。

    kǔ kǒu pó xīn

    苦口婆心

    相手を気づかい、何度も教えさとすこと。

    日本語でも「老婆心から言わせてもらうけど…」という言い方をしますが、それととてもよく似ています。

    世間に広まった夫婦の対句

    この話は、夫婦に対する大変教訓的なエピソードだと世間に広まりました。そして夫婦間で互いを「老公」「老婆」と呼び合う習慣が生まれたのでした。

    この呼び方が中国全土に広まったことは、当時の中国社会が「夫婦は一生寄り添うものだ」という考えを再確認し、受け入れたことを意味します。

    老婆」以外によく耳にする妻を表す語には「太太」(tài  tai)や「爱人」(ài rén)、「老伴儿」(lǎo bànr)、「亲爱的」(qīn ài de)などがあります。

    妻にぞっこんな夫が「心肝儿」(xīn gānr)や「宝贝儿」(bǎo bèir)と呼んでいる場合もあります。

    中国の結婚指輪

    中国各地の夫婦の呼び方の違い

    これら以外に、地方によって様々な呼び方があります。例えば北方では「媳妇儿」(xí fu er)と呼びますが、普通話で「媳妇儿」は息子の嫁を表す語なので不思議な感じがしますね。

    湖北省江漢地区では「姑娘」(gū niáng)、重慶や四川では「婆娘」(pó niáng)、山西省では「屋里的」(wū lǐ de)などです。

    中国にはほかにもたくさんの呼び方があります。中国人の友人に地元での妻の呼び方を聞いてみるのも面白いですね。

    「老」という漢字の使われ方

    」という漢字は中国語で頻繁に用いられます。覚えておくと、日常会話においてとても便利です。

    lǎo dà

    老大

    きょうだいの中で一番年上の子供

    lǎo bǎn

    老板

    社長

    lǎo jiā

    老家

    実家

    lǎo shī

    老师

    教師、先生

    lǎo qì

    老气

    落ち着いてしっかりしている

    lǎo yàng zi

    老样子

    相変わらず

    lǎo guī lǜ

    老规律

    古い規則、これまでのルール

    lǎo zì hao

    老字号

    老舗

    lǎo zì hao diǎn xīn pù tíng yè le

    老字号点心铺停业了

    老舗の和菓子屋が廃業しました。

     lǎo bí zi

    老鼻子

    とても多い、たくさんある

    nèi tiān qù lǚ yóu de rén kě lǎo bí zi le

    那天去旅游的人可老鼻子了

    あの日旅行に出かけた人はたくさんいた。

    lǎo péng yǒu

    老朋友

    古くからの友達

    tā shì wǒ de lǎo péng yǒu

    他是我的老朋友

    彼は古くからの友達だ

    ここまでで「老公」「老婆」と呼び合うようになったエピソードについて取り上げましたが、それはお互い歳を重ねたとしても、互いに対する愛情を再確認し、生涯寄り添う決意を表明した美しい言葉です。

    このように呼び合うからは、夫婦ともにいつまでもずっと仲睦まじく生涯を共にしていければ良いのですが、現実はなかなか難しいようです。

    中国の離婚

    中国の離婚事情

    中国の離婚件数

    中国語で結婚は「结婚」(jié hūn)、離婚は「离婚」(lí hūn)といいます。

    先進国をはじめとして、世界各地で高まっている離婚率ですが、中国も例外ではありません。2010年からの10年間の離婚件数を見てみると、2010年は267万8000件であったの対し、2020年には433万9000件となっており、62%増加しています。

    ただし、2021年と2022年に関しては、コロナウィルスの影響によるロックダウンなどの非常事態の要素もあり、それぞれ213万9000件と210万件となっています。

    21世紀になってから中国の離婚率は上がってきていて、世界的にも離婚率が高く「離婚大国」と言われています。では離婚に至る理由としてはどのようなものがあるのでしょうか?

    中国での離婚の主な原因

    主な理由として挙げられているのは以下のとおりです。

    まず、不倫と性格の不一致が最も多いようです。そのほかにも、家庭における義務の不履行、経済的理由、親戚関係の問題、ギャンブルなどの理由が挙げられています。

    中国での離婚率が高い都市

    中国は人口も多く、面積も広大ですが、地区によっても離婚率は異なるようです。以下は2022年の統計です。離婚率の高い順にリストアップしました。

    1. 北京市 39%
    2. 上海市 38%
    3. 深圳市 36.25%
    4. 広州市 35%
    5. アモイ市 34.9%
    6. 大連市 31%
    7. 杭州市 29%
    8. ハルピン 28%

    こうしてみると、やはり大都市ほどに離婚率が高いということがわかります。

    大都市の離婚率が高い理由

    なぜ大都市の方が離婚率が高くなるのでしょうか?

    農村部に比べて大都市の方が、ビジネス面においてチャンスがあります。そのため、経済的に裕福になりやすいと言う背景があります。時間とお金に余裕ができてくると、夫婦の世界に第三者が入り込みやすくなり、不倫に至るというケースが多いようです。

    中国の大都市では、虚栄心を満足させたい気持ちも強くなるようで、自分の生活に満足できなくなってしまうと、配偶者に対しても満足ができなくなってしまうこともあるようです。

    大都市においては高い生活水準を維持するために、夫婦双方が共働きで仕事に多くの時間をかけざるを得ず、お互いのために十分に時間をとることができないという状況も多く見られます。

    仕事のために長期間別居せざるをえない場合も多々あり、感情的に疎遠になってしまうことにより、離婚に至るケースも存在します。

    ほとんどの方は、家族を幸せにするために一生懸命働くはずなのですが、仕事が忙しかったり、お金を得たがために家庭が崩壊してしまうというのは本当に残念な話です。

    まとめ

    今回は中国語でなぜ妻を「老婆」と呼ぶのか、なぜ夫を「老公」と呼ぶのかについて紹介しました。

    そこにはとても素晴らしいエピソードがありました。この呼び名が今でも中国全土で使用されているのは本当に感慨深いことです。「老婆」「老公」と呼ぶたびに、夫婦は年老いても一生寄り添うという美しい結婚観を思い返すことができますね。

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