古代中国女性の額のメイクアップ「花钿」と「花黄」:その歴史と文化

    1. 中国歴史・民族

    現代中国でも受け継がれる伝統メイクの「花钿」や「花黄」は時代とともに変化してきました。現代では、ウエディングフォトや婚礼など様々なシーンで用いられています。

    この記事を参考に「花钿」や「花黄」の理解を深めて会話力をアップしてみませんか。

    古代中国女性の額のメイクアップ「花钿」と「花黄」:その歴史と文化

    古代中国女性の額のメイクアップ「花钿」

    色、デザイン、材料の変遷

    古代中国では、女性たちは美しさを追求するために様々な化粧法を用いていました。その中でも、特に有名なのが「花钿」と呼ばれる額のメイクアップです。

    この「花钿」は文字通り「花」と「髪飾り」を意味する言葉で、花のような華やかなデザインが特徴です。これは、額にあしらわれた髪飾りのような役割を果たすものでした。

    花钿」は古代中国の漢代から唐代にかけて流行しました。当時の女性たちは清楚で柔らかなイメージを表現するため、淡い色の「花钿」を選選んでいたそうです。

    原料は主に鉛や硫化水銀、緑色の顔料などを使用して額に描かれました。唐代になると「花钿」のデザインは大幅に変わり、独特な文化的背景からより華やかなものになりました。

    時代による花钿の変化

    唐代は文化が栄えた時代であり、詩や絵画が盛んでした。そのため「花钿」のデザインにも、詩や絵画のモチーフが取り入れられるようになりました。

    また、花の形状に限らず龍や鳳凰、雲、鳥などの多様なモチーフが描かれました。デザインだけでなく材料時代の変化とともに様々なものが活用されています。

    特に唐代では貝殻や銀紙、金箔などが使用され、より贅沢な装飾が施されるようになりました。「花钿」の色は、時代や社会的背景によっても変化しています。例えば、明代には紅白黒緑など、より豊富な色合いが登場しました。

    清代では、朝鮮半島から流入した黒や赤紫色が流行し、額に大胆なデザインが施されていました。現代において、「花钿」は伝統文化として大切にされ、復古的なファッションとして注目を集めています。

    一部の女性たちは、イベントや写真撮影などで古代の風格を表現するために「花钿」を使用することがあるそうです。

    さらに伝統的な「花钿」は、多くの女性たちが婚礼などの特別な行事において、伝統的な「花钿」を身に着けています。ウエディングフォトで「花钿」を纏った中国人女性を見かけたことがある方もいるかもしれません。

    時代の背景と共に変化してきた「花钿」は、現代的なデザインも加わり、若い女性たちにも人気があります。

    始まりの物語:孫権と鄧夫人

    古代中国の額のメイクアップ「花钿」の始まりは諸説ありますが、中でも有名な説として三国時代の呉の孫権と鄧夫人の逸話があります。

    三国時代の呉の王である孫権には、とても寵愛する妻の鄧夫人がいました。ある日孫権は、鄧夫人の額に小さな茶色のシミができたことに気付き、彼女の美しさを傷つけることを恐れてシミを隠す方法を模索し始めました。

    孫権は、鄧夫人の美しさを損なわずにシミを隠すことができる方法を多くの宮廷の女性たちと議論しました。

    その結果、鄧夫人の額に小さな花を描くことが提案されました。このアイデアは、孫権にとって非常に魅力的で彼はすぐに鄧夫人の額に花を描くことを命じたそうです。

    鄧夫人の額の花を見た孫権は、その美しさに驚嘆し彼女が以前よりも美しく見えることに気付きました。そして、この美しい花が「花钿」という名前で広く受け入れられるようになりました。

    後にこの「花钿」は、古代中国の女性たちに広く受け入れられ、数多くの異なるデザインと色が作られました。例えば、紫色の「桂钿」や赤い「胭脂钿」などがあります。素材は繊細な刺繍や金属、宝石が使用されていました。

    花钿」は、古代中国の女性の美しさや気品を象徴するものとして、非常に重要な役割を果たしました。そして、孫権と鄧夫人の物語は「花钿」が始まった由来の美しい物語として、後世に語り継がれています。

    太陽が花畑を照らしています。

    花钿が流行した唐時代

    宮廷女官たちのメイクアップ

    唐時代は中国の中世期に位置する王朝であり、この時代は文化的な黄金期でもありました。唐時代には、宮廷女官たちが美しく見えるように多くのメイクアップ技術が発達しています。

    その中でも額のメイクアップ「花钿」は特に流行しました。唐代の宮廷女官たちは、自然の風物の中で自分たちの美しさを追求することができていました。

    中でも特に注目された「花钿」は、数種類の花弁やシルクなどの素材を使用した複雑なパターンを作り出すメイクアップです。

    唐代の宮廷女官たちの中で大変流行した「花钿」は、玄宗皇帝が賞賛するほどでした。女官たちは、自分たちの「花钿」のデザインを競い合うようになり、褒められるために複雑で美しいデザインを必要としていました。

    花钿」のデザインは、季節や行事によって異なります。春には桜の花弁や桃の花、夏には蓮の花弁、秋には菊の花弁、冬には松の葉などが使用されました。

    さらに「花钿」は、女官たちの階級によってデザインが異なり、高位の女官ほどデザインが複雑である傾向がありました。位が上がるほど、より豪華な素材が使用され複雑なデザインが作られていたそうです。

    多くの女性を魅了する「花钿」は額に貼り付けることから、女官たちは普段から良質なスキンケアを行い、額の肌を美しく保つことが求められました。

    このように、唐時代の宮廷女官たちは「花钿」の華やかなメイクアップを楽しんでいたことが分かります。彼女たちの美しさは、今でも多くの人々の憧れの的となっています。

    楊貴妃の最期と花钿

    唐時代、楊貴妃は美しい容姿と卓越した才能で知られ、当時の皇帝である玄宗の寵愛を受けていました。

    楊貴妃はその美しさを強調するために「花钿」を好んで使用していました。しかし彼女の美しさと寵愛は、妬みや陰謀によって最終的に彼女の悲劇的な最期につながりました。

    唐玄宗が高麗に出兵する際、楊貴妃は玄宗に同行することを許されましたが、途中で軍の進軍を遅らせたという罪で処刑されたとされています。

    一方、他の説では玄宗の息子李隆基(後の唐高宗)が楊貴妃を排除するために、彼女を自殺に追い込んだとも言われています。

    楊貴妃が処刑された後、彼女の美しさと悲劇的な最期は「花钿」とともに数多くの詩や文学作品、美術作品に描かれます。彼女が愛用したとされる「花钿」は、唐代の宮廷女官たちの間で広く使われ、彼女たちの美しさの追求として大変流行しました。

    花钿」は貴族階級の女性たちの美しさを強調するために、唐代の宮廷文化において重要な役割を果たしたともいわれています。

    花钿」は楊貴妃が愛された時代の美と、彼女の最期の願いを象徴する装飾品として中国の文化史において今現在も受け継がれています。

    そして楊貴妃の最期は、彼女の美しさと力強さを讃える詩や文学作品、音楽作品にも多大な影響を与えました。彼女の悲劇的な運命は、後世の文化的な表現においても、しばしば取り上げられています。

    中国の青い空を背景に枝に黄色い花。

    「花黄」の起源とデザイン

    寿阳公主と蝋梅の花

    花黄」は元々中国の伝統的な文化装飾品の一つで、黄色や金色の生地に花や鳥、動物などを刺繍したものでした。その起源は古代中国にまで遡りますが、特に盛唐時代に発展したとされています。

    当時の宮廷や上流階級の女性たちは、身につける衣服や装飾品によって地位や美意識を表現することが一般的でした。華やかな「花黄」は当時の女性たちに愛され、その時代のトレンドとして栄えました。

    花黄」におけるデザインには、各時代や地域の特色があります。例えば、唐代には寿阳公主が愛用していた蝋梅(ロウバイ)の花模様が有名で、そのデザインは非常に緻密で美しいものでした。

    蝋梅(ロウバイ)は寒さにも強く、冬でも花を咲かせることができることから、寿阳公主の強い精神力や美意識を象徴する花として注目を集めました。

    加えて蝋梅(ロウバイ)の花は白地に赤や紫色の花びらを持ち、花の中央には黄色い柱頭がある特徴的な形をしています。

    これは女性の美しさや純粋さを表現するとともに、黄色は古代中国で皇帝や王室にしか許されなかった貴重な色であるとされており、上流階級的な美意識を表現するのにふさわしいとされました。

    明代の花黄

    一方、明代には「花黄」のデザインに民間文化や自然の要素が加わりました。織物や刺繍の中には華麗な花だけでなく、鳥や魚、虫などの動物が描かれ、自然の豊かさや活力を表現しています。

    特に明代には「壽」や「囍」などの文字がデザインに取り入れられ、長寿や幸せを願う意味が込められました。

    現代中国では「花黄」は伝統的な文化の一部として愛されており、各地で独自のデザインや色彩が生み出されています。

    梅花妆と呼ばれるように

    元々刺繍として生まれた「花黄」は、時代の変化と共にメイクアップとしても用いられるようになりました。現代では、「梅花妆」(méihuāzhuāng)と呼ばれ、中国の伝統的なメイクアップとして今なお多くの女性たちに愛され続けています。

    特に「梅花妆」(méihuāzhuāng)のメイクアップスタイルは、「花黄」に使われていた蝋梅(ロウバイ)の花の形からきており、非常に独特で美しいデザインで知られています。ここでは、「梅花妆」と呼ばれるようになった背景も一緒にご紹介します。

    花黄」とは、中国古代の女性の化粧の一種であり、唐代に特に流行しました。このメイクは、額に「花钿」を付け、鼻の上に紅色の口紅をつけ、白粉で顔を明るく仕上げるものでした。

    花黄」が「梅花妆」と呼ばれるようになった背景には、南朝宋武帝の寿阳公主と蝋梅(ロウバイ)の花が関係しています。

    寿阳公主は、唐代の皇帝・玄宗の孫娘であり、美しさで知られていました。彼女は常に梅の花を身につけ、梅の花をモチーフにした衣服やアクセサリーを好んで身に着けていました。

    ある日、寿阳公主が女官たちと遊び疲れて横になって休んでいるときのことです。近くに咲いていた蝋梅(ロウバイ)の花びらが、そよ風に運ばれて彼女の額に落ちました。

    汗で黄色の花の痕が残り、それがあまりに美しかったのをすっかり気に入った皇后は、三日間は洗わずにそのままにしておくように言いました。

    それからというもの、寿阳公主は時折蝋梅(ロウバイ)の花を摘んでは額につけるようになり、女官たちもこぞってそれを真似たのです。そして、メイクは蝋梅の花の形から「梅花妆」とも呼ばれるようになりました。

    このように、寿陽公主の影響や蝋梅の花が流行したことから、「花黄」は「梅花妆」と呼ばれるようになりました。今でも、中国の伝統的な結婚式や舞踏会などで「梅花妆」が使われることがあります。

    中国の枝には黒い花が咲いています。

    花黄を愛用したムーラン

    《木兰诗》に描かれる花黄

    花黄」は中国の伝統的な化粧品であり、古くから女性たちに愛用されてきました。「花黄」を使ったメイクアップスタイルとして知られる「梅花妆」は、中国の文化の一部として広く認知されています。

    そして、この「梅花妆」を愛用した人物の一人に、ムーランがいます。ムーランは、中国の古典詩《木兰诗》に登場する女性で、男装して戦場に出ることで父親の代わりに軍隊に仕えたとされています。

    映画『ムーラン』やディズニーのアニメ映画『ムーラン』など、様々な作品で描かれてきたことからご存じの方も多いのではないでしょうか。

    諸説ありますが、ムーランは古代中国の女性であるため、彼女が男装して戦場に出る傍らで「梅花妆」を取り入れていたという説もあります。

    梅花妆」は、梅の花に似た形状のメイクアップスタイルであり、唇を赤く塗り、目を強調することで、梅の花をイメージしたデザインに仕上げます。ムーランのような男装した女性が、女性らしさを残しながら戦場で活躍するために、「梅花妆」を使用したという説もあります。

    さらには、ムーランは男性的な服装をしていたため、女性らしさを楽しめない制限の中で生きていました。そうした環境下の中で「梅花妆」を使用することで、髪型やアクセサリーなどに象徴される女性らしさや彼女自身の美しさを表現することができたかもしれません。

    ムーランが「梅花妆」を使用していたかどうかは定かではありません。しかし、彼女のような女性が男装しながら戦場で活躍する中で「梅花妆」を使用することで、自身の美しさや女性らしさを表現することができていたのではないでしょうか。

    帰郷後のメイクアップ

    ムーランが戦場から帰ってきた後、彼女は普通の女性のように身なりを整えるようになります。この際、彼女は「梅花妆」(花黄)を愛用していました。

    彼女が「梅花妆」を選んだ理由には、戦場での男性的な服装と振る舞いから解放され、女性としての自分自身を再発見するためであったと考えられています。

    梅花妆」は、鮮やかな花色が特徴で、宮廷女官たちに非常に人気がありました。薄く塗り、自然な仕上がりになるように調合された多くの成分で構成され、紅花、桃の花、桂花、檀香、竹炭などの天然成分が含まれています。

    梅花妆」は黄色の土台に紅や緑、青、黄などの色を加え、花や鳥などの模様を描きます。「梅花妆」は、顔全体を覆うものではなく、顔の特定の部分にのみ適用されることが一般的でした。

    例えば、眉毛の上には緑や赤の小さな花を描き、頬には赤い花を描き、唇には紅色の色素を塗り、鳥を描くことがありました。

    女性たちの美しさと女性的な魅力を強調する「梅花妆」だからこそ、戦場で戦うムーランの心を掴んでいたのかもしれません。

    木兰诗》からは、ムーランの心情描写や当時の情景が伺えます。

    Tuō wǒzhànshípáo,zhùwǒjiùshíshang Dāngchuānglǐyúnbìn,duìjìngtiēhuāhuáng

    脱我战时袍,著我旧时裳。当窗理云鬓,对镜帖花黄。

    私は戦で着ていた兵服を脱ぎ、以前の娘の装束に着替えた。窓の前で鏡に向かい、美しい髪を整えて髷を結い、額には花黄を貼った。

     

    Chū ménkànhuǒbàn,huǒbànjiējīngmáng:tóngxíngshí’èrnián,bù zhī Mùlánshìnǚláng

    出门看火伴,火伴皆惊忙:同行十二年,不知木兰是女郎。

    外に出て共に戦った仲間たちに会いに行くと、彼らは皆あっけにとられた。12年間一緒にいたがムーランが女性だと全く知らなかったのだ。

    説明:床上の一品中国色婚礼服。

    現代の花钿と花黄の活用

    ウエディングフォトの漢服スタイル

    中国の伝統的な文化やファッションが再評価され、伝統的衣装である「漢服」が再び注目されるようになりました。その中でも、ウエディングフォトの撮影において「漢服」スタイルが人気を集めています。

    特に「花钿」と「花黄」といった中国の伝統的なメイクアップを取り入れたウエディングフォトが人気です。「花钿」は、中国の伝統的な装飾品で古代から女性が額に付ける装飾品として使用されてきました。

    一方「花黄」は、唐時代から宋代にかけて流行した髪飾りで蝋梅の花を模した装飾品で、細く丸い枝に結晶をつけ、花と葉を模したデザインになっています。

    現代の漢服スタイルにおいて「花钿」や「花黄」を取り入れることで古代中国の文化を再現し、新郎新婦の雰囲気を引き立たせることができます。

    特にウエディングフォトの撮影において「花钿」や「花黄」を使用することで、新郎新婦の華やかさや美しさをさらに引き立たせることができます。

    花钿」や「花黄」を使用した漢服スタイルのウエディングフォトには、大きく分けて2つのスタイルがあります。1つは、古代中国の宮廷女性のように、華やかで重厚感のあるスタイルです。

    もう1つはよりシンプルなスタイルで「花黄」を髪飾りとして使用し、「花钿」は額飾りとして使用することで清楚で優雅な印象を与えます。

    ウエディングフォトに使用する漢服は新郎新婦の体型や雰囲気に合わせて選ばれることが多く、それぞれの個性を引き立たせるためにデザインや色合いが変化してきました。

    花钿」や「花黄」のデザインも同様に、新郎新婦のイメージに合わせてアレンジされることがあります。さらには、ウエディングフォトでは撮影場所や小道具にもこだわりがあります。

    中国の伝統的な建築物を背景に、特別な瞬間を残す新郎新婦も少なくありません。中国上海の観光地外滩はウエディングフォトスポットとして大人気で、撮影している新郎新婦を見ることができます。

    華流時代劇での花钿の活躍

    華流時代劇は、中国の歴史や伝統文化を基にした作品が多く制作されています。その中でも、古代中国女性の美しさや美意識を表現するために「花钿」が活躍しています。

    特に宮廷女官や貴妃たちが着用し、その美しさと優雅さから多くのドラマや映画で「花钿」を着用した女性たちが登場しています。そのため、中国の時代劇で知った方も多いのではないでしょうか。

    華流時代劇で「花钿」が活躍する場面は、主に宮廷の場面や貴族階級の女性たちの生活を描いたシーンで見られます。ドラマの中での「花钿」は、髪飾りや前髪を飾るために使用され、額に装着することで女性たちの美しさを強調しています。

    花钿」を着用した女性たちが登場する場面では美しい音楽と背景が用いられ、ドラマや映画の世界観をより一層華やかに演出しています。

    花钿」を愛用する女性たちのキャラクターは優雅で知的、高貴な女性として描かれることが多く、彼女たちが着用する「花钿」は彼女たちの美しさを象徴しています。

    華流時代劇では「花钿」を着用した女性たちが美しく華麗なドレスとともに登場し、「花钿」を身にまとうことで、中国の美意識や美しさを表現する重要な要素として活躍しています。

    まとめ

    伝統メイクアップとして現代も受け継がれる「花钿」や「花黄」は、中国の長い歴史や深い文化を知ることができます。気軽に楽しめるメイクとして中国人だけでなく、中国語を学ぶ留学生にも人気が高まっています。

    中国を感じる体験としてはもちろん、交流のきっかけとしても活用してはいかがでしょうか。中国人との距離もグッと縮めることができるはずです。

    使える中国語をカフェで習得
    何度でも聞ける1対1レッスンはコスパ最強
    【先生を選んで、無料体験する!】

    開く

    この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます