中国語学習を始めたばかりの方が最初に直面する、シンプルでありながら奥深い単語、それが「是 (shì)」です。
「英語のbe動詞と同じでしょ?」と思っていると、思わぬ落とし穴にはまってしまいます。実は、この一文字をどれだけ深く理解し、使いこなせるかが、あなたの中国語レベルを「初心者」から「中級者以上」へと引き上げるカギとなるのです。
日常会話での相槌から、論理的な説明、さらには相手への敬意を表す表現まで、「是」の守備範囲は驚くほど広いです。この記事では、発音のコツからネイティブしか知らないような応用表現まで、余すところなく徹底解説していきます。
語学の学習は、体系的に学ぶことが近道です。もし、アジア圏の言語に興味があり、韓国語も並行して学びたいと考えているなら、信頼できる韓国語教室で基礎を固めるのも素晴らしい選択肢です。また、この記事で解説する中国語を本格的にマスターしたい方は、プロの指導が受けられる中国語教室の情報をチェックしてみてください。
中国語における「是」は、日本語の「はい」や英語の「Yes/Is」に相当しますが、その機能は文脈によってカメレオンのように変化します。まずは、その正体をしっかりと見極めることから始めましょう。
1. 「是 (shì)」とは?基本概念と発音のコツ
多くの学習者がつまずく最初のハードルが、実は発音です。「シー」とカタカナ読みをしていては、残念ながらネイティブには「数 (shù)」や「四 (sì)」など別の単語に聞こえてしまう可能性があります。
英語のbe動詞との決定的な違い
学校の授業で「是 = be動詞(is/am/are)」と習った方も多いでしょう。確かに、「A は B です」という構文においては、その理解で正解です。
- 我是日本人。 (Wǒ shì Rìběn rén.) = I am Japanese.
- 他是老师。 (Tā shì lǎoshī.) = He is a teacher.
しかし、英語のbe動詞は「I am happy.(私は幸せです)」のように形容詞とも繋がりますが、中国語の「是」は原則として形容詞とは繋がりません。この違いについては、後ほどの「NG使用例」の章で詳しく解説します。
日本人が苦手な「反り舌音」shìの完全マスター法
「是」のピンインは shì です。これは「反り舌音(建設音)」と呼ばれる音で、舌を巻く動作が必要です。
舌先を上あごの天井部分に近づけますが、完全には接触させません。
【shì の発音トレーニング手順】
- 口を少し横に引く(笑顔の形)。
- 舌先を上の歯茎の裏側から、喉の奥の方へ少しずらす(反らせる)。
- 舌先と上あごの間にわずかな隙間を作る。
- その隙間から、息を強く摩擦させながら「シー」に近い音を出す。
- 第四声なので、上から下へ鋭く「是ッ!」と言い切るイメージで発声する。
日本語の「シー」は舌が下の歯の裏にありますが、中国語の「shì」は舌が空中に浮いている状態です。この違いを意識するだけで、発音は劇的に改善します。
2. 「是」を使った基本の文法ルール
発音をクリアしたら、次は文法です。ここでは、最も基本的かつ頻出の3つのパターンを確実にマスターしましょう。
「是」は天秤のようにAとBをイコールで結ぶ役割を果たします。
肯定文:A=Bの法則
最も基本的な形です。「A は B である」と定義する際に使います。
基本公式: 主語 + 是 + 名詞(または名詞句)
- 这是我的手机。
(Zhè shì wǒ de shǒujī.)
これは私の携帯電話です。 - 那是书。
(Nà shì shū.)
あれは本です。 - 现在是十点。
(Xiànzài shì shí diǎn.)
今は10時です。
否定文:A≠Bの法則
否定する場合は、「是」の前に否定の副詞「不 (bù)」を置きます。「不是」となるとき、「不」の声調変化に注意が必要です。「是 (shì)」が第四声なので、「不 (bú)」は第二声に変化します。
否定公式: 主語 + 不是 (bú shì) + 名詞
- 我不是中国人。
(Wǒ bú shì Zhōngguó rén.)
私は中国人ではありません。 - 这不是我的错。
(Zhè bú shì wǒ de cuò.)
これは私のミスではありません。
疑問文:A=Bですか?
質問をする場合は、主に2つの方法があります。
1. 文末に「吗 (ma)」をつける方法
最も一般的な疑問文です。
- 你是学生吗?
(Nǐ shì xuéshēng ma?)
あなたは学生ですか?
2. 「是不是 (shì bu shì)」を使う反復疑問文
肯定と否定を並べることで疑問を表します。こちらは「〜ですよね?」「〜なのかどうなのか」といった確認のニュアンスや、少しカジュアルな響きを持つことがあります。文末に「吗」は不要です。
- 你是不是日本人?
(Nǐ shì bu shì Rìběn rén?)
あなたは日本人ですよね?(日本人ですか?)
3. 【脱初心者】表現の幅を広げる「是」の応用構文
基本ができたら、次は表現力を豊かにする応用編です。HSK(中国語検定)などの試験でも頻出の構文ばかりです。
強調構文「是……的」:いつ・どこで・誰がを特定する
すでに起こった過去の出来事について、「誰が」「いつ」「どこで」「どのように」行ったのかを強調したい場合、「是……的 (shì … de)」構文を使います。
例えば、「私は昨日、飛行機でここに来ました」という文で、「昨日」を強調したい場合:
我是昨天坐飞机来的。
(Wǒ shì zuótiān zuò fēijī lái de.)
私は昨日(飛行機で)来たのです。
この文では、「来た」という事実は既知であり、「いつ来たのか(=昨日)」という点にスポットライトを当てています。この「是」は省略されることもありますが、文末の「的」は省略できません。
理由を論理的に説明する「之所以……是因为」
少し硬い表現ですが、ビジネスやスピーチで非常に役立ちます。「〜である理由は、〜だからだ」という因果関係を明確にする構文です。
- 他之所以成功,是因为他很努力。
(Tā zhīsuǒyǐ chénggōng, shì yīnwèi tā hěn nǔlì.)
彼が成功した理由は、彼が努力したからです。
譲歩表現「A是A」:肯定しつつ反論するテクニック
相手の意見を一度受け入れてから、自分の意見(逆説)を述べるときに使います。「確かにAはAなんだけど……」というニュアンスです。
- 便宜是便宜,但是质量不太好。
(Piányi shì piányi, dànshì zhìliàng bú tài hǎo.)
安いことは安いのだけれど、品質があまり良くない。
この構文では、「是」の前後に同じ形容詞や動詞を置きます。人間関係を円滑にする「クッション言葉」として非常に有効です。
4. 会話が弾む!相槌と返答の「是」バリエーション
会話の中で「是」は、単なる動詞としてだけでなく、相手への同意や確認のサインとして大活躍します。
適切なタイミングでの「是」は会話のリズムを作ります。
同意を表す「是」「是的」「就是」の使い分け
| 表現 | ピンイン | ニュアンス・意味 |
|---|---|---|
| 是 | Shì | はい。そうです。(基本の肯定) |
| 是的 | Shì de | その通りです。(丁寧で落ち着いた響き) |
| 就是 | Jiù shì | まさにその通り!もちろん!(強い同意) |
「対 (duì)」と「是 (shì)」の厳密な違いとは?
日本語の「はい」にあたる言葉として、「対 (duì)」もよく使われます。違いは何でしょうか?
- 是 (Shì): 相手の質問に対して「Yes」と答えるとき、または事実を認めるときに使います。
- 対 (Duì): 「Correct(正解)」という意味合いが強く、相手の言った内容が「合っている」ことを確認するときに使います。
日常会話では頻繁に混用されますが、「対対対!(そうそうそう!)」と連呼する場合は「是」よりも「対」が自然です。
驚きや確認を表す「是吗?」
相手の話に対して「へぇ、そうなの?」「本当ですか?」と反応するときに使います。
- A: 我下个月要结婚了。(来月結婚するんだ)
- B: 是吗?恭喜恭喜!(そうなの?おめでとう!)
「吗」のトーンを上げると驚きを表し、下げると「ふーん、そうなんだ」という軽い納得を表します。
5. 「是」を使ってはいけない!日本人が陥りやすい3つの罠
どんなに便利な「是」でも、使ってはいけない場面があります。ここが初心者と中級者の分かれ道です。
NG例1:形容詞述語文(あなたは美しい≠你是漂亮)
日本語で「あなたは美しいです」と言うため、「你 (あなたは) 是 (です) 漂亮 (美しい)」と言いたくなりますが、これは間違いです。
中国語では形容詞自体が述語になる力を持っているため、be動詞のようなつなぎ言葉は不要です。その代わり、リズムを整えるために「很 (hěn)」などの副詞を置くのが一般的です。
- × 你是漂亮。 (文法的に不自然)
- ◎ 你很漂亮。 (Nǐ hěn piàoliang.)
※ただし、「あなたの性格は優しい(形容詞)が、態度は冷たい」のように対比させる場合や、「彼女こそが美しいのだ(強調)」という特殊な文脈では「是」を使うこともあります。
NG例2:存在を表す文(ここに本がある≠这里是书)
「机の上に本があります」と言うとき、「机の上 = 本」ではないため、「是」は使いません。存在を表す場合は「有 (yǒu)」を使います。
- × 桌子上是书。 (机の上イコール本、という意味になり不自然)
- ◎ 桌子上有一本书。 (Zhuōzi shang yǒu yì běn shū.)
ただし、「机の上にあるのは本です(他のものではなく)」と中身を説明する場合は「是」を使えます。
NG例3:省略すべきシーン(年齢・値段・日付)
曜日、日付、年齢、値段などを言う場合、「是」を使わずに名詞述語文として成立させることが多いです。
- 今天星期五。 (Jīntiān xīngqīwǔ.) – 今日は金曜日です。(是は不要)
- 我二十岁。 (Wǒ èrshí suì.) – 私は20歳です。
もちろん、「今天是不是星期五?(今日は金曜日ですか?)」と聞かれたときに「今天是星期五」と答えるのはOKです。
6. 表現を豊かにする「是」を含む重要複合語・慣用句
「是」は単体だけでなく、様々な接続詞や副詞の一部としても機能します。これらを覚えると、文章の論理構成がしっかりします。
- 但是 (dànshì) / 可是 (kěshì)
- 意味:「しかし」「でも」。逆説の接続詞です。
例:我想去,但是没时间。(行きたいですが、時間がありません。) - 还是 (háishì)
- 意味:「あるいは」「それとも」「やはり」。
疑問文で選択を迫るとき:你喝咖啡还是茶?(コーヒーにしますか、それともお茶?)
平叙文で:还是家里最好。(やっぱり家が一番だ。) - 总是 (zǒngshì)
- 意味:「いつも」「常に」。頻度が高いことを表します。
例:他总是迟到。(彼はいつも遅刻する。) - 只是 (zhǐshì)
- 意味:「ただ〜だけだ」「〜にすぎない」。
例:我只是问问。(ちょっと聞いてみただけだよ。) - 是非 (shìfēi)
- 意味:「良し悪し」「是非」。日本語の「是非お願いします」の「是非(ぜひ)」とは使い方が異なり、中国語では「正しいことと間違ったこと」や「揉め事」を指します。
例:明辨是非(是非をわきまえる)。
7. まとめ: 「是」を制する者は中国語会話を制す
いかがでしたか?たった一文字の「是」ですが、その奥には中国語の論理構造や文化的なニュアンスが詰まっています。
初心者のうちは「A=B」の肯定文だけで精一杯かもしれませんが、学習が進むにつれて、「強調の是」「譲歩の是」「相槌の是」と、使い方の引き出しが増えていくはずです。
語学学習において、「知っている」と「使える」の間には大きな川が流れています。この記事で得た知識を定着させるためには、実際に声に出して使い、間違いを恐れずに会話の中で試してみることが不可欠です。
ぜひ今日から、独り言でも構いませんので、「这是……(これは〜だ)」「我是……(私は〜だ)」と、身の回りのものを定義することから始めてみてください。その積み重ねが、あなたの中国語を揺るぎないものにしてくれるでしょう。
