中国経済を引っ張る「BATH」とは?

  1. 中国経済・社会

急成長を遂げる中国は米国に次ぐ経済大国となりました。中国には「BATH」(バス)と呼ばれる巨大企業群が存在しています。

この「BATH」は現代中国を語るうえでなくてはならない存在です。経済は苦手とおっしゃる方もぜひ一度目を通してみてください。

中国経済を引っ張る「BATH」とは?

中国のGDPは世界二位

国家の経済力を示す数値としてはしばしばGDP(国内総生産)が用いられます。

guó nèi shēng chǎn zǒng zhí

国内生产总值

国内総生産(GDP)

中国ではアルファベット読みでGDPと言っても普通に通じます。

2023年時点で世界のGDPを比較すると、米国が一位で中国が二位となっています。では、中国のGDPはいつから二位になったかはご存じでしょうか?

中国は2010年に当時二位だった日本を抜いて、世界二位になりました。この時には中国と日本を含む各国のメディアがニュースで報道しました。

zài èr líng yī líng nián zhōng guó GDP chāo guò le rì běn

在2010年中国GDP超过了日本。

2010年に中国のGDPが日本を上回った。

それまでは日本が二位だったのです。日本は高度経済成長期の1968年に西ドイツを抜き、米国に次ぐ世界二位となっており、その後42年間ずっと世界二位でした。2010年以降、中国のGDPはずっと世界二位を維持し続け、押すに押されぬ経済大国となっています。

中国の経済

BATHについて

国家のGDPは企業によって支えられており、米国や中国には国の経済を支える巨大企業群が存在します。中国の企業群はよく米国の企業群と比較されます。それで、まずは米国の企業群について簡単に紹介します。

米国には「GAFA」と呼ばれる巨大企業群が存在しています。

  • G=Google(検索エンジン)
  • A=Apple(デバイス販売)
  • F=Facebook(SNS)
  • A=Amazon(ECサイト)

この四つの企業の名前を聞いたことのない人はいないでしょう。この四つの企業を総称して「GAFA」と呼んでいます。

知りたいことがあればGoogleで調べる。欲しいものはAmazonで購入する。誰かとつながりたければFacebookを開く。デバイスはAppleを使う。

米国が生んだ巨大企業群GAFAは、今や米国のみならず日本人の生活インフラとなっています。そこに迫るのが、中国で台頭する「BATH」(日本語読みではバス)で、下記の4社です。

  • Baidu(百度、バイドゥ)
  • Alibaba(阿里巴巴集団、アリババ)
  • Tencent(騰訊、テンセント)
  • HUAWEI(華為技術、ファーウェイ)

GAFAとBATHの対応関係

GAFAとBATHを並べてみると面白いように対応しています。

GAFABATH
G=Google(検索エンジン)B=Baidu(検索エンジン)
A=Apple(デバイス販売)H=Huawei(デバイス販売)
F=Facebook(SNS)T=Tencent(SNS)
A=Amazon(ECサイト)A=Alibaba(ECサイト)

右側の「BATH」の順番が変わってしまっていますが、分かりやすくするためにGAFAの順番に合わせて順番を変えています。

中国国内では「BATH」の特徴についてこのように表現しています。

bǎi dù, zhōng guó rén gōng zhì néng “lǐng tóu yàn”

B:百度,中国人工智能“领头雁”。

バイドゥ、人工知能における中国の「リーダー」。

 

ā lǐ bā bā, zhōng guó yún jì suàn “tóu hào wán jiā

A:阿里巴巴,中国云计算“头号玩家”

アリババ、中国のクラウドコンピューティングの「ナンバーワンプレーヤー」。

 

téng xùn, zhōng guó chǎn yè hù lián wǎng yǐn lǐng zhě

T:腾讯,中国产业互联网引领者

テンセント、中国の産業用インターネットのリーダー。

 

huá wèi, zhōng guó wǔ G tōng xìn chǎnyè “zuì qiáng wáng pái”.

H:华为,中国5G通信产业“最强王牌”

ファーフェイ、中国5G通信業界の「最強の切り札」。

こうした中国語の表現に注目するととても勉強になります。様々な表現を用いて「ナンバーワン」「リーダー」という意味を伝えています。

「BATH」のそれぞれの企業の特徴はどのようなものでしょうか?そしてこれらの巨大企業の創業者は誰なのでしょうか?

中国の百度

中国のBATH:4大企業

中国の巨大検索エンジン「百度」

百度」(bǎi dù)は「中国のGoogle」とも呼ばれる企業で、中国最大の検索エンジンを提供しています。中国国内では2022年の時点では、国内で75%以上のシェア率を有しています。

世界最大の検索エンジンといえばもちろんGoogleですが、中国ではGoogleなどの海外のネットサービスを自由に利用することができません。そのため「百度」の検索エンジンがパソコン・スマートフォンともに圧倒的なシェアを占めています。

「百度」の創業者:李彦宏

百度」の創業者はロビン・リーこと「李彦宏」(lǐ yàn hóng)です。彼は米国に留学し、卒業後まずは米国のIT企業に勤めます。

その後、米国のベンチャーキャピタルから120万米ドルもの資金を調達したうえで、中国に戻ってきます。彼はその潤沢な資金を活用し、帰国後なんと半年で「百度」を大企業にしてしまいます。

海外のトップの大学に留学して中国に帰ってくる人の事を「海龟」(hǎi guī)といいます。「海龟」はとても貴重な人材で中国ではとても重宝されます。「李彦宏」はその「海龟」の典型的存在といえるでしょう。

ECサイトの「アリババ」

アリババは企業間電子商取引をサポートするマッチングサイト「阿里巴巴」(ā lǐ bā bā; アリババ・コム)で成長した企業で、中国におけるEコマースの発展をけん引してきた企業です。

主にCtoCの取引が中心となる電子商取引サイト「淘宝」(táo bǎo;タオバオ)」や、BtoCの取引が中心となる「天猫」(tiān māo;Tmall)も運営しています。

電子マネーサービス「支付宝」(zhī fù bǎo;アリペイ)も運営するなど、中国経済のデジタルシフトをけん引する存在でもあります。

「アリババ」の創始者:ジャック・マー

アリババの創始者は日本でも有名なジャック・マーこと「马云」(mǎ yún)です。この「马云」は中国では知らない人はいないほど有名な人です。この「马云」にはたくさんの逸話があります。

马云」は決してエリート出身ではありませんでした。中学高校時代の学力は決して高くなく、タイプとしては叩き上げです。中学生の頃から英語の勉強に夢中だったようです。

その方法というのが、外国人旅行者に無料でガイドを提供するという方法です。朝早く起きては外国人が泊りそうなホテルの前で外国人がくるのを待ち伏せし「無償でガイドする」と申し出ます。

一見何のメリットもないように思えるのですが、「马云」はその間ネイティブと英語で会話することができるのです。

马云」はネイティブにガイドしながら英語で会話を続けるという独自の方法で英語を修得します。ただし、学力は高くなく、大学受験に2度失敗します。

その後、杭州師範大学の英語科に合格します(補欠合格で入学)。卒業後の就職活動は順調でなく、ケンタッキー・フライド・チキンのバイトも含む30社就職活動に失敗しました。

その後、就職に困った「马云」は英語の能力を頼りに翻訳会社を作ります。就職できなかったので自分で起業するしかなかったのです。そして、翻訳の仕事の関係で米国に行ったときに転機が訪れます。それがインターネットとの出会いです。

その後「马云」は気づきました。「インターネット上で買い物ができるのではないか?」そして考えついた商法がEコマース(電子商取引)です。

こうして「淘宝」や「天猫」が登場するようになりました。次に「马云」はその商品を決済するサービスを開発します。それが「アリペイ」です。

中国のWeChat

SNSの「テンセント」

テンセントは「LINE」のようなメッセンジャーアプリ「WeChat」を提供する企業です。WeChatの月間アクティブユーザー数(MAU)は、13億1,900人(2023年3月末)にも達しています。日本人が使うLINEのMAUは9,500万人(2023年3月末現在)なので、比較するとその規模の大きさが分かります。

テンセントは「WeChatPay」という決済システムを独自にもっており、アリババの「Alipay」と並んで、中国における2大決済サービスとなっています。

WeChat上には様々なミニアプリがあり、ユーザーはWeChatさえスマホにダウンロ―ドしておけば、ネットショッピングや、商品・サービス購入、電気・ガス・水道、公共サービスの支払いに至るまであらゆるシーンで活用でき、中国においてなくてはならないインフラとなっています。

「テンセント」の創始者:ポニー・マー

ポニー・マーこと「马化腾」(mǎ huà téng)は「马云」とは対照的にエリート出身です。高い学力を有し、自分で大学を選べる状態になるほど成績が良かったのです。そんな「马化腾」は深圳の大学に入学します。そして在学中に「エンジニア」としての能力をいかんなく発揮します。

彼にはこんな逸話があります。ずっとパソコンをいじっていたかった「马化腾」は、大学のパソコンにウイルスを放ちフリーズさせます。そしてそれを修理する役を買って出ることで、ずっとパソコンをいじる許可を得ます。

のちにウイルスを放ったのが「马化腾」本人であることが明るみになったのですが、教授は「马化腾」を責めるどころかその才能に感動したそうです。

その後、SNSであるQQを開発し、テンセントを創業します。

デバイスメーカーの「ファーウェイ」

通信機器メーカーのファーウェイは、通信機器メーカーとして成長し、日本においてもスマートフォンメーカーとして認知されています。中国国内においては依然として、インターネット網を支える企業として存在感を持っており、5Gなど次世代通信網の普及を牽引しています。

ファーウェイは2023年8月末に新たなスマートフォン「HUAWEI Mate 60 Pro」を発売しました。同社の発表によると、新製品は衛星電話に対応する世界初の大量生産スマートフォンで、地上ネットワークの信号が届かない場所でも衛星通信を利用した通話が可能となるとのことです。

ファーウェイの創始者:元軍人の任正非

任正非」(rèn zhèng fēi)は、ジャック・マーや李彦宏といったカリスマたちとは世代が異なり、彼らの父親世代にあたります。

任正非」はかつて人民解放軍の軍人で、軍人時代の仲間たちとファーウェイを創業しました。当初は電話交換機や火災報知器を製造していましたが、その後「2Gで世に出て、3Gで追いつき、4Gで追い越し、5Gでリードする」といわれた急成長により、ファーウェイは売上高14兆円をあげるほどの巨大企業に変貌しました。

この「任正非」は倹約家として知られています。ウイグル自治区へ視察に新疆ウイグル地区に視察に行った時、その地区の責任者は任正非に対する敬意を表すため、リンカーンのリムジンを借りて空港に迎えに行きました。

しかしリムジンを見た任正非は「時間とお金の無駄だ」と怒り出したのです。中国を代表する企業となっても質素倹約の精神を失わない、それが「任正非」です。

これら「BATH」が始まった当時は、テクノロジーやサービスの内容はアメリカの企業をコピーしたものがほとんどでした。しかし、技術力の向上と国策による企業保護が功を奏し、独自のサービスを展開し始めます。

国内総人口14億人という巨大なマーケットも後押しし、右肩上がりの成長で「GAFA」に追いつき追い越そうとしています。

一つ強調したい点として「BATH」の四つの企業が手がけている事業は一つではありません。百度は「AI事業」、アリババは「クラウドコンピューティング事業」、テンセントは「ゲーム事業」、ファーウェイは「電気自動車事業」を行うなど、それぞれが多極展開しています。上に挙げた特徴は代表的なものをとりあげたに過ぎないということを覚えておきましょう。

まとめ

今回は中国経済を牽引する「BATH」について紹介しました。それぞれの企業も創業者もとても個性的で魅力がありますね。これからも著しい成長を続ける「BATH」の動向に注目していきましょう。

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