中国の公園を歩いていると、水を含ませた長い柄の筆で地面に美しい文字を書く風景に出会うことがあります。乾けば消えてしまう一瞬の書であっても、筆を運ぶ身体の動きや一画一画の呼吸には長年の鍛錬が表れています。中国書道の深い魅力は、紙に残された完成作品だけでなく、文字を生み出す行為そのものにも宿っています。
中国書道には、篆書(てんしょ)、隷書(れいしょ)、草書(そうしょ)、行書(ぎょうしょ)、楷書(かいしょ)という有名な五大書体のほかに、特定の時代や文化のなかで生まれた珍しい書法が数多く存在します。そのなかでも、異彩を放ち異風の美を誇るのが「反左書(はんさしょ)」です。
反左書は、字形をまるで鏡に映したように左右反転させて書く特殊な書法です。一見すると、鑑賞者を驚かせるための曲芸や奇術のようにも見えるでしょう。しかし、南朝梁の陵墓へと続く神道(しんどう)には、反転した文字を刻んだ壮大な石柱が今も残されています。単なる遊びの書にとどまらず、公的で荘厳な空間に採用されたという歴史的尺度は、反左書が書道史において無視できない存在であったことを示しています。
独学で中国語や中国文化を学んでいると、こうした歴史的な書法の奥深さに触れる機会が多くあります。文字構造や背景にある文化を理解することで、単語の習得だけでなく言語そのものへの親しみが深まります。もし、独学での学習に限界を感じたり、自然な表現や発音のニュアンスをより深く学びたいと感じたりした場合は、プロの指導を受けるのも素晴らしい選択肢です。マンツーマンで基礎から学べる中国語教室などの専門レッスンを活用することで、学習の幅がさらに広がります。
この記事では、反左書とはどのような書法なのか、鏡文字との明確な違い、南朝梁の神道石柱に残る歴史的遺物、発祥時期をめぐる興味深い矛盾、衰退した理由、現代の継承活動、そして実際の書き方や鑑賞のポイントまでわかりやすく紐解いていきます。
反左書はどのような書法なのか
- 反左書は字形を左右反転させ、主に左手で書く伝統的な書法である
- 一般的な鏡文字とは異なり、用筆・結体・章法という書道本来の美を備える
- 文字の反転と読む順序の反転(倒書)は概念として区別される
反左書の漢字の意味を分解すると、「反」は反転、「左」は左手、「書」は書くことや書法を表します。一般的には、左手を用いて通常とは反対向きの字を書く技術と説明されます。中国語では「反左書(fǎnzuǒshū)」と読み、「左手反書(zuǒshǒu fǎnshū)」や「鏡子書法(jìngzi shūfǎ)」などの異名を持ちます。
薄い和紙や宣紙に反左書を書いた場合、筆を動かしている側から見ると文字は左右逆になっています。しかし、紙を裏返したり、裏側から光にかざして透かしたりすると、見慣れた通常の向きの美しい文字として現れます。日本語では「鏡書」「鏡文字の書道」「左手による反書」などと訳されるのが一般的です。
ただし、単に文字を左右逆さまに書けば何でも反左書と呼べるわけではありません。歴史的な意味における反左書には、単なる記号の反転を超えた高い芸術的要件が含まれています。
- 文字の骨格(字形)が正確に左右反転している
- 主に左手を用いて書く身体技法が伴う
- 通常とは異なる方向へ滑らかに筆を進める高度な技術が必要とされる
- 鏡や紙の裏側、あるいは対面から見た際に正字としての調和が保たれている
- 起筆・送筆・収筆という筆遣い(用筆)、点画の組み立て(結体)、全体の配置(章法)を備えている
鏡文字との違い
「鏡文字」とは、鏡に映したときに通常の向きに見える文字全般を指す言葉です。幼少期の子供が文字を覚える過程で偶然書き表してしまう逆さ文字や、デザインやサインとして意図的に反転させた文字も広義の鏡文字に含まれます。
反左書も分類としては鏡文字の一種と言えますが、中国書道としての歴史的技法と美的法度を背景に持っている点で大きく異なります。反左書では、裏返した構造を完璧に維持しながらも、墨の濃淡、線の力の強弱、文字同士の間隔、余白の美しさを厳格に整えなければなりません。パソコンの画像処理で文字を反転させることは容易ですが、筆圧の生み出す生命感や線の呼吸は、機械的な反転だけでは再現できないのです。
反左書と倒書は同じではない
歴史的遺物を考察するうえで混同してはならないのが、「文字自体の反転」と「読む順序の反転」の相違です。
反左書は、文字一つひとつの形が鏡像になっている書法を指します。これに対して「倒書(とうしょ)」は、文字そのものは通常の向きで書かれているものの、並びや読む順番が右から左、あるいは下から上へと通常とは逆方向に配置されている形式を指します。南朝梁の神道石柱には、文字形のみが反転したもの、読む方向も反転したものなど複数のパターンが存在し、当時の文人たちが緻密な空間視覚効果を設計していたことがうかがえます。
反左書に残された最古級の記録
- 南朝梁の庾元威が書いた『論書』に孔敬通が創始したという記録が残る
- 周囲が読めず書いた者だけが理解できるため「衆中清閑法」と呼ばれた
- 唐代の『法書要録』や『酉陽雑俎』を通じて後世へ知識が継承された
文献史料のうえで反左書について語る際、必ず引用されるのが南朝梁(502年〜557年)の書家・庾元威(Yǔ Yuánwēi / ゆげんい)の記録です。庾元威は当時の書体に造詣が深く、雑体書(特殊な形状の書体)を数多く論じた人物として知られています。
庾元威の著した『論書(ろんしょ)』には、反左書の起源に関する非常に具体的な記述が残されています。
『論書』にみる反左書の記述
「反左書は、大同年間に東宮学士の孔敬通が創始した。私がそれを見て習得し、宴席での返答に用いたところ、同席者のなかに読める者は誰もいなかった。そのため『衆中清閑法』と呼ばれた。」
この記録によると、反左書を創始した人物は孔敬通(Kǒng Jìngtōng / こうけいつう)とされています。孔敬通は南朝梁の大同年間(535年〜546年頃)、皇太子の御所で学問や文書を司る「東宮学士」という要職にあり、草書の名手としても名高かった人物です。このことから、反左書は街頭の見世物ではなく、宮廷の文人文化の中で嗜まれた高度な知的ゲームの側面を持っていたことがわかります。
また、「衆中清閑法(zhòngzhōng qīngxián fǎ)」という風雅な別名も魅力的です。賑やかな宴席の只中で自分だけが解読できる文字を書き、静かに興を削がずに遊ぶという、当時の文人らしい知性と遊び心が込められています。
『法書要録』と『酉陽雑俎』に引き継がれた記憶
庾元威が書き残した反左書の存在は、後世の書論や雑記にも重要語句として採録されました。唐代に張彦遠が編纂した書の総合資料集『法書要録』や、段成式による奇聞集『酉陽雑俎(ゆうようざっそ)』においても、特殊書体の代表例として「反左書」が明記されています。南朝の宮廷で咲いた珍しい文化の記憶は、唐代の知識人たちにとっても関心の対象であり続けたのです。
孔敬通が創始したという説に残る矛盾
- 創始時期とされる大同年間(535〜546年)より前に没した人物の墓柱に反左書が存在する
- 孔敬通は考案者ではなく体系化・定着させた人物である可能性がある
- 宮廷の宴席戯と陵墓の建築装飾という二つの異なる文脈が存在する
文献の記録をそのまま信じるならば、反左書の誕生は535年以降の大同年間ということになります。しかし、実際に現地に残されている古代の石刻遺物は、この記録に対して大きな歴史的矛盾を突きつけます。
現在、反左書の実例として世界的に知られている代表的な石刻遺物が以下の二つです。
- 梁文帝・蕭順之の建陵神道石柱(江蘇省丹陽市)
- 呉平忠侯・蕭景墓の神道石柱(江蘇省南京市)
ここで歴史上の大きな不整合が生じます。墓主である蕭順之(梁武帝・蕭衍の父)は大同年間より遥か昔に没しており、蕭景も523年に亡くなっています。つまり、孔敬通が反左書を創始したとされる大同年間(535年〜)よりも前から、現実の石柱には反左書が刻まれていたことになります。
「創始」は何を意味していたのか
この文献と実物の年代のズレに対して、書道史研究者の間ではいくつかの合理的な解釈が提示されています。
| 説・解釈 | 概要と背景 |
|---|---|
| 1. 技法の整理・体系化説 | もともと存在した反書表現を孔敬通が洗練させ、宮廷文人文化として定着させた(「創」=体系化)。 |
| 2. 系統分離説 | 陵墓建築の空間装飾としての反書と、左手を用いて書く宴席の反左書が本来は別系統だった。 |
| 3. 記録の誤伝説 | 庾元威の聞き伝えによる不正確さがあり、既存の特殊技法が有名人である孔敬通に帰属された。 |
断定は避けるべきですが、「孔敬通が一から発明した」と捉えるより、「すでに石刻などで応用されていた反転技法を、孔敬通が左手筆法として理論化・洗練させた」と理解するのが最も実情に近いと考えられています。
南朝梁の石柱に残る反左書
- 神道石柱は墓主の権威と死者の世界へ通じる聖域を示す重要建築物である
- 蕭景墓の石柱には23字の反転楷書が端正な法律で刻まれている
- 機械的反転ではなく書家が反転を意図して書き下ろした高度な筆致が見られる
「神道(shéndào)」とは、中国古代の皇帝や皇族、高官の陵墓へと続く参道のことです。その参道の両側には石獣や石柱、石碑が対になって配置され、死者の領域を示す荘厳な空間を作り出していました。そのような極めて公的で厳粛な場所に反左書が採用されている事実は、現代の私たちが持つイメージを覆します。
蕭順之の建陵神道石柱
梁武帝の父である蕭順之の建陵(江蘇省丹陽市)神道には、向かい合う一対の石柱が建てられていました。その額題には「太祖文皇帝之神道」と記されており、片方の石柱の文字が鮮やかに左右反転して刻まれていました。神道を挟んで対面する二つの石柱が、視覚的に見事な対称性を成すよう計算されていたのです。
蕭景墓神道石柱
さらに保存状態が良く、書道史上絶大な評価を受けているのが、523年に没した梁の皇族・蕭景(字は子昭)の墓に建つ神道石柱(江蘇省南京市栖霞区)です。
高さ約6.5メートルに及ぶ堂々たる石柱の額題には、左右反転した楷書で以下の23文字が整然と並んでいます。
蕭景墓石柱の銘文
「梁故侍中中撫将軍開府儀同三司呉平忠侯蕭公之神道」
日本語に訳せば「梁の故・侍中中撫将軍開府儀同三司呉平忠侯である蕭公の神道」という意味になり、墓主の正式な官職と爵位を誇り高く掲げた標識です。
この銘文は、反転しているにもかかわらず線の太さが安定しており、結体(文字の形)は極めて端正です。清代末期の書家・清朝詩人である康有為(Kāng Yǒuwéi)は、その著書『広芸舟双楫』のなかでこの石柱の書を「平整均浄の宗(非常に平らかで整い、清らかで均衡の取れた最高峰)」と絶賛しました。単なる珍奇さを狙ったものではなく、南朝の洗練された美意識を体現した一流の書作品であることが証明されています。
反転した文字が陵墓に置かれた理由
- 神道を挟む一対の石柱において視覚的な左右対称美(シンメトリー)を完成させるため
- 文学の対句表現を三次元の建築空間へと展開した美的試み
- 生者の日常世界と死者の異界を区別する境目としての象徴的役割
なぜ、可読性を犠牲にしてまで反転した文字が荘厳な陵墓に刻まれたのでしょうか。同時代の明示的な記録はありませんが、当時の美意識や空間思想から以下の理由が挙げられています。
1. 左右対称(シンメトリー)の景観美
神道には石獣や石柱が左右対になって並びます。両側の額題を同じ向き(正字)で書くと、参道を進む者から見て一方は内側に向かい、もう一方は外側に向くという視覚的な不調和が生まれます。片方をあえて反転させることで、二つの文字が互いに内側を向き合う完璧な鏡像美を作り出したのです。
2. 陰陽・正反の対比空間
南朝の文学や芸術では、対句や響き合いが強く好まれました。参道を挟んで「正」と「反」、「左」と「右」を対置させることは、対句文化を立体空間へ拡張した表現と考えられます。表裏一体の宇宙観や陰陽の調和を可視化する狙いがあったとも推測されています。
3. 聖域と日常の境界線
鏡の向こう側で左右が入れ替わるように、通常とは逆向きの文字は「ここから先はあの世(死者の領域)である」という境界を視覚的に告げる神秘的な役割を果たしていたという解釈も存在します。
反左書が広く定着しなかった理由
- 左手での高度な制御と頭の中での空間反転という習得の難易度の高さ
- 実用的な情報伝達(行政・記録・手紙)に向かない可読性の低さ
- 侯景の乱をはじめとする戦乱による貴族文化の途絶
南朝梁で一花を咲かせた反左書ですが、楷書や行書のように民間に定着して引き継がれることはありませんでした。その背景にはいくつかの現実的な要因が重なっています。
第一に、習得技術の難易度が極めて高い点です。利き手ではない左手で筆をコントロールするだけでも困難ですが、偏と旁、払いの方向、重心の位置を頭の中で瞬時に反転させて書く必要があります。一画でも躊躇すれば線の勢いが死んでしまうため、凡庸な書家では作品として成立させられませんでした。
第二に、日常的な実用性の欠如です。書は芸術であると同時に情報を伝える手段です。読むために鏡を必要とする文字は、公文書や手紙、記録には適さず、用途が限定的すぎました。
さらに、南朝梁の末期に起きた「侯景の乱(こうけいのらん)」による社会の混乱も壊滅的な打撃を与えました。都である建康が荒廃し、高度な宮廷文化を支えていた貴族階級や伝承者が散逸したことで、特殊な秘術であった反左書は継承の糸が途切れてしまったのです。
「書法外道、翰墨之厄」という批判の真相
後世の文献において、反左書は「書法外道、翰墨之厄(書の正道から外れた邪法であり、筆墨にとっての災いである)」と酷評されたとされる説があります。この厳しい批判は、明代の趙宧光が著した『寒山帚談』などの正統派書論に見られます。
唐代以降、書道では王羲之を最高峰とする規範や実用性、規範的な法度が最優先されるようになりました。奇をてらう技法は「邪道」として退けられる傾向が強まったことも、反左書が主流から姿を消した一因です。しかし、正統派から排斥されたからこそ、秘解の技としての神秘性が今なお語り継がれているとも言えます。
現代に受け継がれる反左書
- 南京の邵泰華氏など民間の実践者によってパフォーマンスや地書として維持された
- 浙江省金華市にて2018年に「無形文化遺産」として正式登録された
- 林馬余氏らの活動により学校教育や地域講座で体験・継承が行われている
長い歴史の中で表舞台から姿を消していた反左書ですが、その独特な技法は完全に途絶えたわけではありません。現代の中国において、伝統文化の再評価とともに新たな息吹が吹き込まれています。
南京の民間伝承者である邵泰華(Sào Tàihuá)氏は、水を含ませた大きな筆で公園の地面に字を書く「地書(dìshū)」の形で左手反書を長年実演し、多くの人々を魅了しました。古書に埋もれていた身体技法を公共の場へと連れ戻した功績は大きなものです。
また、浙江省蘭渓市の林馬余(Lín Mǎyú)氏は、蕭景墓の神道石柱に感銘を受けて本格的な研究と普及活動を開始しました。左右の手で同時に正字と反字を書く双管齊下の表現や、横方向への反書など新たな技法を開拓しています。
これらのたゆまぬ取り組みを結実させる形で、2018年には浙江省金華市の「第7批市級無形文化遺産(無形文化財)名録」に反左書が正式登録されました。現在は継承拠点が整備され、小中学校での体験授業や市民講座を通じて、次世代へと受け継がれる貴重な文化的財産となっています。
反左書を書くために必要な基礎
- 元の漢字構造を正しく把握してから空間反転を行う
- 単に筆順を逆になぞるのではなく左手に適した自然な運筆を探る
- 一字書くごとに紙を裏返したり鏡を用いて反転結果を検証する
自身で反左書に挑戦する場合、いきなり複雑な文字を書こうとすると字形も線の質も破綻してしまいます。段階を踏んで練習を重ねることが上達への近道です。
- 正字の構造を頭の中で完璧に分解する:「明」であれば左に「日」、右に「月」ですが、反転すると左に「月」、右に「日」となり、かつそれぞれのパーツ自体も左右逆になります。パーツの配置と向きを正確に把握します。
- 鏡や透かし紙を利用する:薄い用紙に書いた字を裏返して光にかざすか、手元に鏡を置いて観察し、反転の仕組みを脳に記憶させます。
- 左手での自然な運筆を見つける:筆は押す動きより引く動きの方が線が安定します。右手の筆順を単に最後から逆再生するのではなく、左手にとって滑らかに引ける筆順を工夫します。
- 裏返して入念に検証する:書いた後に必ず紙を裏返し、偏と旁のバランス、線の傾き、中心線のズレがないかを客観的にチェックします。
初めて書くときの練習例
- 左右対称の文字から始めて段階的に複雑な漢字へ進む
- 偏と旁を持つ熟語の配置バランスを意識する
- 落款まで含めた表裏の一体感を構成する
反左書の感覚を体験するためのステップ別おすすめ漢字リストです。
| 段階 | 推奨する漢字 | 練習のねらい |
|---|---|---|
| 第1段階 | 一、十、田、山、中 | ほぼ左右対称のため、左手で筆を運ぶ動作に集中する。 |
| 第2段階 | 人、大、月、水、永 | 払い、はね、点の反転による見え方の変化を観察する。 |
| 第3段階 | 明、林、好、休、語 | 偏と旁の位置入れ替えと、パーツ自体の反転を合わせ行う。 |
| 第4段階 | 和平、友好、山水、読書 | 2文字の配置、文字間隔(字間)の均等さを裏面から確認する。 |
反左書に関する中国語フレーズ
- 反左書や書道に関連する重要中国語単語を網羅
- 会話や現地での鑑賞に役立つ自然な例文と解説
文化背景を学ぶとともに、反左書に関連する中国語表現を身につけてみましょう。
- フレーズ
- 反左书是用左手反向书写的一种特殊书法。
- ピンイン・読み方
- Fǎnzuǒshū shì yòng zuǒshǒu fǎnxiàng shūxiě de yì zhǒng tèshū shūfǎ.(ファンズォシー シー ヨン ズォショウ ファンシアン シューシエ ドゥー イージョン ターシュー シューファー)
- 日本語訳
- 反左書は、左手で反対向きに書く特殊な書法です。
- 使う場面
- 中国の文化紹介や、博物館・中国人の友人へ反左書について説明する際に適しています。
- 注意点・誤用例
- 「用左手(左手を使う)」を言い忘れると単なる反転文字(反体字)の説明になってしまうため、左手での身体動作であることを明示するとより正確です。
- 発音・ニュアンス
- 「反(fǎn)」と「左(zuǒ)」はともに第三声なので、声調変化(変調)により「fán zuǒ」のように聞こえます。語尾の「书法(shūfǎ)」は落ち着いて発音しましょう。
- フレーズ
- 从正面看是反字,从背面看接近正字。
- ピンイン・読み方
- Cóng zhèngmiàn kàn shì fǎnzì, cóng bèimiàn kàn jiējìn zhèngzì.(ツォン ジョンジエン カン シー ファンズー、ツォン ベイジエン カン ジエジン ジョンジー)
- 日本語訳
- 表から見ると反転した文字で、裏から見ると通常の文字に近く見えます。
- 使う場面
- 反左書作品の二面性や鑑賞方法を具体的に解説する際に非常に便利なフレーズです。
- 注意点・誤用例
- 「正面(zhèngmiàn)」と「背面(bèimiàn)」の対比を対比させてはっきりと発音するのがポイントです。
- 発音・ニュアンス
- 「从〜看(〜から見ると)」という構文は日常会話でも多用されます。「接近(jiējìn)」は第一声・第四声の組み合わせで、滑らかにつなげます。
書道・伝統用語対照表
| 中国語(簡体字) | ピンイン | 日本語の意味 |
|---|---|---|
| 反左书 | fǎnzuǒshū | 反左書(左手で反転字を書く書法) |
| 镜子书法 | jìngzi shūfǎ | 鏡書法 |
| 神道 | shéndào | 神道(陵墓へ通じる参道) |
| 石柱 | shízhù | 石柱 |
| 无形文化遗产 | wúxíng wénhuà yíchǎn | 無形文化遺産(無形文化財) |
| 传承人 | chuánchéngrén | 伝承者・継承者 |
作品を鑑賞するときに見たいポイント
- 表側の反転姿と裏側(または鏡)に映る正字の両方の美的バランスを見る
- 反転を意識しても線に迷いや震えが生じていないか運筆の成熟度を確かめる
- 単体の文字だけでなく紙面や建築空間全体における余白(章法)の調和を味わう
反左書を鑑賞する際、単に「逆向きに書かれていて凄い」という表面的な技への驚きだけで終わらせるのは非常にもったいないことです。書作品としての美を深く味わうための注目ポイントをまとめました。
- 表と裏の二面性の照合:表面に現れる独特な造形美と、裏から透かした際の正字としての完成度を比較します。双方で美しいバランスが成立している作品には高度な技量が潜んでいます。
- 線の伸びやかさと躊躇(ちゅうちょ)のなさ:反転を考えながら書くと、どうしても筆が止まりがちになります。起筆から収筆まで線の勢いが途切れず、生き生きとした線質が保たれているか観察します。
- 余白(章法)の反転計算:文字の配置だけでなく、文字と文字の間の白(余白)が裏返した際にも見事な流れを作っているか確認します。
- 置かれた空間との対話:南朝梁の神道石柱のように、石柱、参道、周囲の風景とどのように調和しているかという広義の空間美を体感します。
反左書は曲芸か、それとも芸術か
- 技巧そのものを誇示するだけではパフォーマンスにとどまる
- 反転によって表現したい世界観や高い線質が伴うことで唯一無二の芸術となる
- 南朝の石柱は建築・景観・儀礼と結びついた高度な芸術的実例である
反左書に対しては古くから「ただの見世物やサーカスのような曲芸に過ぎないのではないか」という疑問の目が向けられてきました。しかし、技巧を用いること自体が芸術性を損なうわけではありません。
判断の分かれ目は、技巧が単なる見せびらかしの目的なのか、表現したい美的思想を支える手段になっているかです。
「逆向きに書ける」という能力の披露だけで終われば見世物ですが、反転させることによって正と反、表と裏、書き手と読者の視線が交差する新たな美的空間を作り出し、そこに確かな線質と結体が存在するのであれば、それは反左書でしか達成できない真の芸術表現となります。南朝梁の石柱が1,500年の時を超えて人々を魅了し続ける理由は、まさにその高い芸術性にあるのです。
よくある質問
Q1. 反左書は右利きの人でも練習すれば書けるようになりますか?
はい、書けるようになります。右利きの人であっても、左手での筆の持ち方や基本点画の練習を重ね、文字構造の反転パターンを脳内で整理することで書くことが可能です。現代の伝承者の多くも元々は右利きであり、訓練によって習得しています。
Q2. 反左書と普通の鏡文字の一番の違いは何ですか?
一番の違いは、中国書道としての「法度(用筆・結体・章法)」を備えているかどうかです。単に字形を反転させただけの記号的な鏡文字とは異なり、反左書は筆圧の加減、墨の濃淡、線の生命感、余白の調和といった高い芸術的要件を満たしています。
Q3. 南朝梁の神道石柱は今でも現地で見ることができますか?
見ることができます。特に江蘇省南京市栖霞区にある蕭景墓の神道石柱は、南朝石刻の傑作として現地で保存されており、反転して刻まれた端正な23文字を実際に見学することが可能です。
Q4. 反左書は印章(ハンコ)の文字と関係がありますか?
直接の因果関係を断定することはできませんが、文字を反転させておき、押印(あるいは裏返し)によって正字を得るという「反転の基本原理」において強い共通性を持っています。古代の彫刻や転写の技術文化と相互に刺激し合っていたと考えられています。
Q5. 反左書の練習は中国語の学習にも役立ちますか?
大変役立ちます。漢字を意識的に反転させるプロセスを通じて、偏や旁の位置、点画の組み立てなど、普段無意識に見過ごしている漢字の細かい構造を深く再認識できるため、正確な字形把握や文化理解に大いに貢献します。
反左書をはじめとする中国の豊かな伝統文化は、独学で文献や動画を調べるだけでも多くの発見があります。一方で、文字の構造や歴史的背景について誰かと語り合ったり、自分自身の言葉で自然に中国語を表現できるようになりたいと感じたときは、プロの講師から学べる環境を取り入れることが大きな後押しになります。個々のペースに合わせて丁寧に指導してくれるレッスンを活用し、より豊かな言語体験へ踏み出してみてはいかがでしょうか。

