仲の良い友人との会話で必ず出てくる話題の一つに「恋愛」がありますよね。
中国語でも「恋愛」にまつわる単語や表現、辞書には載っていないフレーズなどが数多く存在します。今回はその一つである「吃醋(chī cù)」の由来や例文をご紹介します。
中国語で「やきもちをやく」は吃错 ?由来やその他の嫉妬の表現も紹介
目次
日本語の「やきもちをやく」の由来
焼き餅を焼く
「やきもちをやく」という表現の由来は、お餅を焼くことを表す「焼き餅を焼く」から来ているといわれています。
お正月の食べ物として私たち日本人に馴染みの深い「お餅」は、焼くと膨らんだり、冷めると縮んだりしますよね。焼きたての餅が膨らんでいく様子が、頬を膨らませて機嫌を損ねる女性の特徴にも似ているように感じるかと思います。
「妬く」と「気持ち」を掛けて「妬く気持ち」となり「焼きもち」になったのだとか。嫉妬することを「妬く(やく)」と表現することから、「焼く」と「妬く」をかけて「〜をやく」という慣用句につながっているともいわれているそうですよ。
普段「ヤキモチを焼く」や「やきもちをやく」という風に、カタカナやひらがなで書かれている文字をよく目にするため、「焼き餅」から来ている表現とは知らずに使っていた方もいるのではないでしょうか。
中国語で「やきもちをやく」は吃醋
吃醋の由来
中国語で「やきもちをやく」は吃醋といいますが、この言葉の由来についてはいくつかの説があります。
酢の醸造方法
一つめは、南の地域で伝わる酢の醸造方法が由来とされる説。この地域では、各家庭で酢を醸造する際に決して同時に二つの樽で醸造してはいけない、という言い伝えが存在していました。
理由は、二つ同時に醸造することで、必ずどちらかの樽の酢が腐敗し処分しなければいけなくなるからだったといわれています。
このことを夫婦に例え「一家は一夫一婦制であるべきである。さもなければ妻と妾との間で生まれる嫉妬心を防ぐのは難しい」という暗喩に用いられるようになったそうです。
物語「醋坛子(cù tánzi)」
諸説ある中でも特に有名なのは「醋坛子(cù tánzi)」という中国の唐時代にまつわるエピソードです。「醋坛子」とは「容易に嫉妬する人」という意味で使われています。
ここでは、受け継がれる経緯を当時の情景が浮かぶエピソード形式でご紹介します。
唐の太宗皇帝「李世民(Lǐ Shìmín)」に仕えていた「宰相(zǎi xiàng)」の「房玄龄(Fáng Xuánlíng)」にはものすごくやきもち焼きの妻がいました。
夫をとても愛していた妻は、食事をはじめとした夫の身の回りの世話を侍女には任せず彼女自身ですべて行うほどで、夫の周りには一切女性が近づくことは許しませんでした。
そんなある日、房玄龄は皇帝の御前の宴席で、周りの高官たちから恐妻家と言われ笑われたのに耐えきれず、酒の勢いから「妻を恐れてなどいない」と、大口を叩いてしまったことがありました。
そんな房玄龄を見た皇帝は彼に対し、「それでは二人の女官を与えるので屋敷に連れて帰るように」と命令したことで彼の酔いは一気に醒めてしまいます。
女官を連れて帰ることで妻がどのような反応をするか容易に想像できた房玄龄ですが、皇帝の命令は何があっても決して断れません。
それでも皇帝の命令に従うしかなく恐る恐る屋敷に戻ると、若くてきれいな二人の女官を見た妻は、激しく感情を爆発させてしまいます。
そして、女官たちをほうきで叩き屋敷から追い出してしまいました。
この出来事はすぐに宮廷の皇帝と家臣たちに届き、皇帝は房玄龄夫婦を罪に問うために宮廷に呼び出す事態となってしまいます。
自身のやきもちが深刻な事態を招いたことを自覚していた妻は、仕方なく夫に従い皇帝のいる宮廷に出向く決心をします。
皇帝の元に着いた夫婦の前には、追い出された二人の女官と一つの樽が置かれていました。
怒りが頂点に達していた皇帝は、
「その樽には毒入りの酒が入っている。この二人の女官を屋敷に連れて帰るか、その酒を一気に飲み干すかどちらかを選べ。」と房玄龄夫婦に告げました。
これを聞いた房玄龄は妻がまた感情を爆発させ、感情的に毒入りのお酒を飲んでしまうのではと恐れ、陛下に泣いて許しを請いました。
そんな房玄龄を横目に妻は、若くて美しい女官と比べて自分は既に老い始めていることを薄々気づいていました。
命令に従って女官を連れて帰り、若くて美しい女官にいつか妻の座を奪われることを恐れ、妻は皆の前で樽の中のお酒を一気に飲み干してしまいました。
妻が死んでしまうと思い泣きながら慌てる房玄龄ですが、皇帝はその様子を見て笑いが止まりません。
実は樽の中は毒ではなく、皇帝の李世民が長く住んでいた「晋阳(Jìn yáng)」の名産品の食酢だったのです。
皇帝はため息をつきながら房玄龄の妻にこう伝えました。
「お前の嫉妬心があまりに激しいものだから、少し頭を冷やさせようとこの方法を用いたが、たとえ死んでも夫を大切にしたいというそなたの想いから、余は先の命令を取り消すことにしよう。」
房玄龄の妻は覚悟を決め毒入りのお酒を飲んだはずが、思いもよらない結果となったことにとても驚き喜んだといいます。
これ以降、嫉妬心から酢を飲んだ妻にちなんで、中国語「吃醋」が嫉妬心の代名詞となり現代でも使われる表現になりました。
またこの故事を基に、「吃醋」(酢を飲む)という言葉は特に男女関係でやきもちを焼く心理を指す言い回しとして今日まで使われています。
嫉妬心の比喩
酢はそのまま飲むとかなり刺激が強く、胃が荒れてムカムカしたりする人も多いですよね。この酢を飲んだときの症状が、嫉妬や妬みの感情を抱いたときの胸のムカつきと似ているという点も由来の一つといわれています。
「酢を飲む」=「吃醋」=嫉妬する・やきもちをやく
ひどく嫉妬心を抱いたときは、そのストレスで胃がやられて胸のムカつきを引き起こしているのかもしれません。
吃醋を使った例文
wǒ nǚ péng yǒu zhī yīn wǒ gēn qí tā nǚ rén jiǎng huà jiù chī cù,zěn me bàn ne
我女朋友只因我跟其他女人讲话就吃醋、怎么办呢
ぼくの彼女は、他の女の子と話すだけで焼き餅を焼くのですが、どうしたらいいでしょうか。
wèile xiě bì yè lùnwén,nà tiān wǒ yào qù túshūguǎn chá zīliào,
A:为 了 写 毕 业 论 文,那 天 我 要 去 图 书 馆 查 资 料,
卒業論文を書くために、あの日、調べ物をしようと図書館に行こうとしたら、
jiù pèng dào le yī ge qīng méi zhú mǎ de péngyou,wǒmen liáo le yī huìr,
就 碰 到 了 一 个 青 梅 竹 马 的 朋 友,我 们 聊 了 一 会 儿,
幼なじみの友人にばったり出会ったの。それでしばらくおしゃべりをしていたら、
xiǎo Zhào jìngrán kàn dào le wǒmen ér fā huǒ,wǒ de rènhé jiěshì ,tā yīgài dōu bù tīng。
小 赵 竟 然 看 到 了 我 们 而 发 火,我 的 任 何 解 释,他 一 概 都 不 听。
何とそれを小赵が見かけて怒ってしまったの。私のどんな説明も一切聞こうとしないのよ。
xiǎnrán tā chī cù le!
B:显 然 他 吃 醋 了!
明らかに彼は妬いているわね。
dàn méi bìyào nàme róngyì chī cù ba,tā zhēn shì ge cù tánzi!
A:但 没 必 要 那 么 容 易 吃 醋 吧,他 真 是 个 醋 坛 子!
でもそんな簡単に妬くことないじゃない、本当にすぐ嫉妬するんだから!
吃醋以外の嫉妬表現
嫉妬や妬み、ひがみなどの感情表現は、吃醋以外にもいくつか存在します。ここでは、吃醋以外の様々な中国語表現をご紹介します。
嫉妒
嫉妒(jídù)は日本語と同じで「しっと」の意味で中国語として使われています。
jí dù shì yī zhóng fù zǎ qiě duō miàn de qín xù。jí dù shí de xīn lǐ fáng yù yào me shì tōng guò tái gāo zì jǐ,bú duàn xǐ nǎo ràng zì jǐ jué de qí shí wǒ bìng měi yǒu nà me chà yào me zé shì tōng guò biān dī tā rén,zhǎo bié rén de máo bìng,lái bǔ cháng fáng yù zì jí de bù zú hé zì bēi
嫉妒是一种复杂且多面的情绪。嫉妒时的心理防御要么是通过抬高自己,不断洗脑让自己觉得“其实我并没有那么差”;要么则是通过贬低他人,找别人的毛病,来补偿和防御自己的不足和自卑。
嫉妬は一種の複雑で多様な面がある感情である。嫉妬するときの心理は、自分自身の向上を通じ、”自分自身がそこまで酷くない”と思わせ続けることを妨げるか、他人を蔑み他人の粗を探し、自分の足りないところを補うことなのかもしれない。
yīn wéi róng yì bèi jí dù,suǒ yǐ xiān ràng duì shǒu yǒng yǒu zì xìn ba
因为容易被嫉妒,所以先让对手拥有自信吧。
嫉妬される立場になりやすいので、まずは相手に自信をつけさせてあげましょう。
jí dù bié rén de cái néng,yě xǔ zhèng shì xuān shí zì jǐ de wú néng
嫉妒别人的才能,也许正是宣示自己的无能。
他人の才能をねたむことは、自分の無能さを表していることかも知れない。
酸味
tā shuō huà zǒng shì dài zhe suān wèi
他说话总是带着酸味。
彼はいつもいやみたっぷりなことを言う。
眼红
wǒ men huò de le líng rén yǎn hóng de míng shēng
我们获得了令人眼红的名声。
私たちは妬まれるほどの名声を手に入れた。
kàn jiàn bié rén yǒu hǎo dōng xi jiù yǎn hóng
看见别人有好东西就眼红。
人がよい物を持っているのを見るとすぐ目の色が変わる。
nǐ bié yǎn hóng rén jiā,yīng gāi zì jǐ nǔ lì
你别眼红人家,应该自己努力。
君は人様をうらやましがってはならない、自分で努力すべきだ。
bú yào yǎn hóng bié rén
不要眼红别人
他人をねたんではならない
nǐ kàn jiàn tā zhè cì kǎo shì dé le mǎn fēn jiǔ yǎn hóng,nǐ měi kàn jiàn tā píng shí xué xí duō kè kǔ ne
你看见他这次考试得了满分就眼红,你没看见他平时学习多刻苦呢!
今度の試験で満点を取った彼を見て君は羨ましがってるけど、彼女が普段どんなに一生懸命勉強してるか見てないでしょ!
自分の感情や感覚などを表現しやすくするために、比喩表現を使う際の色彩語と呼ばれるものがあります。日本語では「顔が赤くなる」や「顔色が青ざめる」などです。
中国語も日本語同様この色彩語にあたる比喩表現があり、ここで紹介する眼红(yǎn hóng)もその一つ。眼が紅くなる(あかくなる)ほど、感情が沸々とこみ上げる様子を表し、「嫉妬」「妬み」「やきもち」といった感情を比喩で表現しています。
まとめ
今回は、恋愛にまつわる表現「吃醋」をご紹介しました。
直訳すると「酢を飲む」という意味の中国語が、実はやきもちをやいている気持ちを表す単語であることは、中国語初学者の方々にイメージしづらい点もあるかと思います。
単語の意味を忘れないようにするための方法として、今回ご紹介した由来のストーリーから学んでみてください。
また、恋愛関係においては相手に自分の気持ちを伝える表現のストックがあることで、より良好な関係を築くことができます。
中国語においても、恋愛にまつわる表現や単語は数多く存在するため、中国語を使って海外の人とお付き合いをするときや、中国人とお付き合いをするときは、色々な感情表現を身につけたいものですよね。
「やきもちをやく」「嫉妬する」などの感情にあたる中国語は、今回紹介した「吃醋」やその他の単語以外にも様々あります。
それぞれに含まれるニュアンスや使うべきシーンをぜひ感覚に染み込ませるために、生きた中国語をぜひ日中交流から学んでいきましょう。
頭で考える前に自然と口に出てくる中国語は、コミュニケーションや交流の機会を広げてくれるはずです。