日本語なら一言で「家(いえ)」と言えば済む場面でも、中国語では「家(jiā)」、「房子(fángzi)」、「房屋(fángwū)」など、状況に応じて言葉を厳密に使い分ける必要があります。

「私は家を買いたい」と言いたい時に、誤って「我想买家(私は家族を買いたい?!)」と言ってしまい、ネイティブを驚かせてしまった……なんていう失敗談は、学習者あるあるの一つです。

この記事では、似ているようで全く異なるこれらの単語のニュアンスを、豊富な例文とともに徹底的に深掘りします。初心者の方はもちろん、中級者の方も意外な発見があるはずです。

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はじめに:中国語の「家」は一つじゃない?ネイティブの感覚を掴もう

日本語の「家」は非常に便利な言葉です。「家に帰る(帰宅)」「家を買う(不動産購入)」「家が広い(建物)」「家柄が良い(家系)」など、物理的な建物から抽象的な概念まで全てカバーできます。

しかし、中国語ではこれらを明確に区別します。まずは、今回解説する主要な6つの単語の全体像をざっくりと把握しましょう。

単語 ピンイン 主な意味・役割
jiā 家庭、帰る場所、家族、自宅(概念)
房子 fángzi 建物としての家、不動産物件
房间 fángjiān 部屋(個室)、ホテルの客室
屋子 wūzi 部屋、屋内(話し言葉、やや北方的)
房屋 fángwū 家屋(書き言葉、法律用語)
厅 / 室 tīng / shì リビング / 部屋(間取りを表す単位)

それでは、それぞれの単語について、具体的な例文を交えながら深掘りしていきましょう。

【最重要】「家 (Jiā)」と「房子 (Fángzi)」の決定的な違い

中国語学習において最も基本的かつ重要な区別が、この「家」と「房子」です。この二つの違いを理解することは、中国文化における「家庭観」と「不動産観」を理解することにも繋がります。

将来のマイホーム(房子)と温かい家庭(家)を想像するカップル

「建物」を買っても、愛がなければ「家庭」にはなりません。

1. 家 (Jiā):愛と帰属の場所、そして家族そのもの

家 (jiā) は、物理的な建物というよりも、「人が住む場所」「家族がいる場所」「帰るべき場所」というソフト面や感情面を強く表す言葉です。

英語で言うところの “Home”“Family” に相当します。

「家」を使う代表的なシチュエーション

  • 帰宅する時: 建物に向かうのではなく、自分の居場所に戻る感覚。
  • 家族について話す時: 「私の家は5人家族です」など。
  • 郷愁を感じる時: 実家や故郷を思う気持ち。

すぐに使える例文集:家 (Jiā)

1. 基本中の基本
我回家。 (Wǒ huí jiā.)
私は家に帰ります。(×我回房子とは言いません)

2. 家族の紹介
我家有四口人。 (Wǒ jiā yǒu sì kǒu rén.)
私の家は4人家族です。

3. 所在地の説明
你家在哪里? (Nǐ jiā zài nǎli?)
あなたの家(自宅)はどこですか?

4. ホームシック
我想家了。 (Wǒ xiǎng jiā le.)
家(家族・実家)が恋しくなりました。

5. 招待する
欢迎来我家玩儿! (Huānyíng lái wǒ jiā wánr!)
私の家に遊びにおいでよ!

6. 実家への帰省
春节我要回老家。 (Chūnjié wǒ yào huí lǎojiā.)
春節には実家(故郷)に帰ります。

7. 引っ越し
我们要搬家了。 (Wǒmen yào bān jiā le.)
私たちは引っ越しをします。(「家」という拠点を移すイメージ)

補足:「専門家」としての「家」

日本語と同じく、中国語でも「家」は専門家を表す接尾辞としても使われます。

  • 画家 (huàjiā) – 画家
  • 作家 (zuòjiā) – 作家
  • 科学家 (kēxuéjiā) – 科学者

2. 房子 (Fángzi):不動産としての建物、物理的な箱

房子 (fángzi) は、コンクリートや木材で作られた物理的な建築物を指します。感情を含まない「物件」「家屋」というニュアンスです。

英語で言うところの “House”“Building” に相当します。不動産の売買や賃貸の話をする時は、必ずこの単語を使います。

「房子」を使う代表的なシチュエーション

  • 家を買う・借りる時: 不動産取引の対象。
  • 建物の状態を話す時: 新しい、古い、大きい、狭いなど。
  • 資産としての家: 中国では結婚の条件として「房子」を持っているかが重視されることがあります。

すぐに使える例文集:房子 (Fángzi)

1. 購入する
我想在上海买一套房子。 (Wǒ xiǎng zài Shànghǎi mǎi yí tào fángzi.)
私は上海で家を一軒買いたいです。(×买家とは言いません)

2. 賃貸する
你在哪儿租房子? (Nǐ zài nǎr zū fángzi?)
あなたはどこで家を借りていますか?

3. 建物の評価
这栋房子很旧,但是很宽敞。 (Zhè dòng fángzi hěn jiù, dànshì hěn kuānchang.)
この家はとても古いが、広々としています。

4. リフォーム・内装
我们在装修房子。 (Wǒmen zài zhuāngxiū fángzi.)
私たちは家の内装工事をしています。

5. 建築する
他在乡下盖了一座大房子。 (Tā zài xiāngxià gài le yí zuò dà fángzi.)
彼は田舎に大きな家を一軒建てました。

6. 価格について
这里的房子太贵了,买不起。 (Zhèlǐ de fángzi tài guì le, mǎi bù qǐ.)
ここの家(物件)は高すぎて、買えません。

7. 住宅ローン
为了买房子,我贷了很多款。 (Wèile mǎi fángzi, wǒ dài le hěn duō kuǎn.)
家を買うために、たくさんローンを組みました。

【豆知識】中国の「房奴 (fángnú)」とは?

近年、中国の都市部では不動産価格が高騰し、若者が家を買うのが非常に困難になっています。高い住宅ローンを返済するために、奴隷のようにあくせく働く人々のことを、自嘲気味に「房奴(家の奴隷)」と呼びます。「房子」がいかに中国人の生活の中心課題であるかがわかる言葉です。

場面別「部屋」の表現:「房间 (Fángjiān)」と「屋子 (Wūzi)」

「家」全体ではなく、その中にある個々の「部屋」を表す言葉もいくつかあります。

ホテルのように整えられた清潔な部屋(房间)

旅行先での「部屋」は間違いなく「房间」です。

3. 房间 (Fángjiān):区切られた空間、ホテルの客室

房间 (fángjiān) は最も一般的で標準的な「部屋」の言い方です。壁やドアで区切られた個別の空間を指します。

  • ホテルや寮: 客室番号がついているような部屋。
  • 家の個室: 寝室や子供部屋など。
  • 量詞(数え方): 「个 (gè)」や「间 (jiān)」を使います。

例文集:房间 (Fángjiān)

1. 部屋の様子
你的房间真干净! (Nǐ de fángjiān zhēn gānjìng!)
あなたの部屋は本当にきれいですね!

2. ホテルの予約
我想订一个标准间。 (Wǒ xiǎng dìng yí gè biāozhǔnjiān.)
スタンダードルームを一部屋予約したいです。

3. 掃除をする
还没打扫房间呢。 (Hái méi dǎsǎo fángjiān ne.)
まだ部屋の掃除をしていません。

4. ルームキー
这是您的房间卡。 (Zhè shì nín de fángjiānkǎ.)
こちらがお部屋のカードキーです。

4. 屋子 (Wūzi):話し言葉で感じる「部屋」のぬくもり

屋子 (wūzi) も「部屋」を指しますが、より口語的(話し言葉)で、生活感のあるニュアンスが含まれます。「屋内」「室内」という意味合いで使われることも多いです。

特に中国の北方でよく使われる傾向があります。南方の人はあまり使わず、全て「房间」で済ませることもあります。

  • ニュアンス: 建物の中の空間、人がいる場所。
  • 使い方: 「房间」と入れ替え可能な場合が多いですが、ホテルの予約などフォーマルな場では「房间」が好まれます。

例文集:屋子 (Wūzi)

1. 中に入る
外面太冷了,快进屋子吧。 (Wàimiàn tài lěng le, kuài jìn wūzi ba.)
外は寒すぎるから、早く部屋(中)に入りなよ。

2. 部屋の空気
这间屋子有点儿闷。 (Zhè jiān wūzi yǒudiǎnr mēn.)
この部屋はちょっと空気がこもっています。

3. 混雑
一屋子的人都在笑。 (Yī wūzi de rén dōu zài xiào.)
部屋中の人がみんな笑っています。

4. 居心地
这屋子虽小,但很暖和。 (Zhè wūzi suī xiǎo, dàn hěn nuǎnhuo.)
この部屋は小さいけれど、とても暖かい。

少し硬い表現:「房屋 (Fángwū)」と間取りを表す「厅 (Tīng)・室 (Shì)」

ここからは、日常生活というよりは、ニュース、契約書、不動産広告などで目にする少し専門的な用語について解説します。

不動産屋で間取り図(2室1厅など)を見ている様子

中国で部屋探しをするなら、間取り図の読み方は必須スキルです。

5. 房屋 (Fángwū):契約書やニュースで見る公的な「家屋」

房屋 (fángwū) は「房子」の書き言葉的、公的な表現です。日常会話で「昨日、房屋を買ったんだ~」とは言いません。

  • 用途: 法律、契約書、ニュース、行政文書。
  • 意味: 家屋、建物全体。

例文:
房屋租赁合同 (Fángwū zūlìn hétong) – 家屋賃貸契約書
房屋中介 (Fángwū zhōngjiè) – 不動産仲介業者
地震摧毁了很多房屋。(Dìzhèn cuīhuǐle hěn duō fángwū.) – 地震が多くの家屋を破壊した。

6. 厅 (Tīng) と 室 (Shì):中国の間取り図(3LDK)を読んでみよう

日本で「3LDK」と言うように、中国の不動産広告では「○室○厅○卫」という表記を使います。

中国語 ピンイン 日本語の意味
shì 個室、寝室 (Bedroom)
tīng リビング・ダイニング (Living/Dining)
wèi トイレ・バスルーム (卫生间の略)

間取りの例

  • 一室一厅 (Yī shì yī tīng): 1LDK(寝室1つ + リビング1つ)
  • 两室一厅 (Liǎng shì yī tīng): 2LDK(寝室2つ + リビング1つ)
  • 三室两厅两卫 (Sān shì liǎng tīng liǎng wèi): 3LDK(寝室3 + リビング/ダイニング2 + トイレ2)→ かなり豪華なマンションです!

その他の「~室」「~厅」

特定の用途を表す場合にも使われます。

  • 客厅 (kètīng): 客間、リビングルーム
  • 餐厅 (cāntīng): 食堂、ダイニング、レストラン
  • 大厅 (dàtīng): ロビー、ホール
  • 卧室 (wòshì): 寝室
  • 办公室 (bàngōngshì): オフィス、事務室
  • 会议室 (huìyìshì): 会議室
  • 教室 (jiàoshì): 教室

間違いやすいポイントと実践会話トレーニング

最後に、学習者がよく間違えるポイントをクイズ形式で確認して、知識を定着させましょう。

Q1. 「そろそろ家に帰らなくちゃ」と言いたい時、正しいのは?

A. 我该回房子了。
B. 我该回家了。

正解:B

解説: 自分の帰るべき居場所に戻る場合は「家」を使います。「回房子」と言うと、自分が所有する物件を確認しに行くような妙なニュアンスになります。

Q2. 「新しい家を買ったの!」と友達に報告する時、正しいのは?

A. 我买新房子了!
B. 我买新家了!

正解:A

解説: 売買の対象となるのは物理的な建物なので「房子」です。ただし、家具などを揃えて「新しい家庭環境」を整えたという意味で、比喩的に「安个家 (ān gè jiā – 家庭を構える)」と言う表現はあります。

Q3. 「私の部屋は2階にあります」と言いたい時、自然なのは?

A. 我的家在二楼。
B. 我的房间在二楼。

正解:B

解説: 家の中の個別の部屋を指すので「房间」が適切です。「我的家在二楼」と言うと、「マンションの2階部分に自宅(世帯全体)がある」という意味になります。

まとめ:シチュエーションに合わせて「家」を使いこなそう

中国語の「家」にまつわる語彙の豊かさは、中国人がいかに「家族との絆」や「住環境」を大切にしているかの表れでもあります。

最後に、もう一度ポイントを整理しましょう。

1. 家 (Jiā): 愛する家族がいる場所、帰る場所。(Home, Family)
2. 房子 (Fángzi): 売買・賃貸する物理的な建物。(House, Building)
3. 房间 (Fángjiān): 個別に区切られた部屋、ホテルの部屋。(Room)
4. 屋子 (Wūzi): 話し言葉で使う、生活感のある部屋。(Inside, Room)
5. 房屋 (Fángwū): 公的な書類などで使う家屋。(Housing)

これらを使い分けるだけで、あなたの中国語はぐっとネイティブに近づきます。「我想买房子(家を買いたい)」と「我想有个家(家庭を持ちたい)」の違いを噛み締めながら、ぜひ実際の会話で使ってみてください。

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ヤン・ファン (楊芳) この記事を書いた人

講師育成で知られる中国・東北師範大学卒業。講師歴は14年に及び、特に日系企業の駐在員やビジネスパーソン向けの指導経験が豊富です。現役の日中医療通訳士としても活動し同行・商談通訳等にも対応可能です
基礎からの正確な発音指導、ビジネス中国語、赴任前短期集中レッスン、HSK・中国語検定対策、日中医療通訳トレーニング。クイック・レスポンス、シャドウイング等の通訳訓練法をレッスンに導入し、実践的なコミュニケーション能力の効率的な習得をサポートします。企業研修(対面・リモート)、個人・グループレッスン、同行・商談通訳等にも対応可能で教材作成、レッスンカリキュラム、講師育成など幅広い分野で活躍。