「中国語で『これは何ですか?』と聞きたいけれど、発音が合っているか不安…」
「教科書では『什么』と習ったのに、ドラマでは違う言葉が聞こえる気がする…」
中国語学習を始めたばかりの方が最初にぶつかる壁の一つが、疑問詞の使い分けです。日本語なら「何(なに)」というたった一文字で済む場面でも、中国語では状況や相手、対象の数、さらには「書き言葉」か「話し言葉」かによって、使うべき単語がガラリと変わります。
もし、あなたがすべての場面で「什么(shénme)」だけを使っているとしたら、それは少しもったいないかもしれません。ネイティブは無意識のうちに複数の「何」を使い分け、よりスムーズで自然なコミュニケーションをとっているからです。
この記事では、中国語のプロフェッショナルとして、基本の「什么」から、教科書には載っていないネイティブ御用達のスラング「啥」、そして数字や時間を尋ねる際の必須表現まで、全角10000字レベルの圧倒的な情報量で徹底解説します。これを読めば、あなたの質問力は格段にレベルアップするはずです。
本格的に中国語のニュアンスや発音をマスターしたい方は、独学だけでなくプロの指導を受けることが最短の近道です。まずは質の高い中国語教室で、基礎からしっかり学ぶことをおすすめします。
第1章:基本中の基本!万能疑問詞「什么(shénme)」を極める
まずは、中国語学習において最も重要、かつ使用頻度No.1の疑問詞「什么(shénme)」から完璧にマスターしましょう。英語の “What” に相当するこの言葉は、会話の要となる存在です。
発音のコツ:軽声を制する者は「什么」を制す
「什么」の発音記号は shénme です。
- shén(第2声): 下から上へ、驚いた時の「えっ?」という感じで一気に上げます。
- me(軽声): ここが最大のポイントです。声調をつけず、短く軽く添えるように発音します。
多くの日本人が「シェン・マー」と後半を伸ばしがちですが、これでは不自然に聞こえます。コツは「シェンムァ」と短く切ること。「ムァ」は口をあまり開けず、喉の奥で軽く鳴らす程度で十分です。
文法ルール:語順を変えずに「置くだけ」の魔法
中国語の疑問文を作る際、英語のように語順を入れ替える必要はありません(例:This is a pen. -> What is this? のような倒置は不要)。
基本ルールは「聞きたい部分を『什么』に置き換えるだけ」です。
肯定文: 这是书。(Zhè shì shū.)
これは本です。
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疑問文: 这是什么?(Zhè shì shénme?)
これは何ですか?
「書(本)」という名詞の場所に「什么」を置くだけで、疑問文が完成します。文末に「吗(ma)」をつける必要もありません。非常にシンプルで論理的ですね。
【実践編】日常会話で頻出する「什么」の黄金パターン5選
以下の5つのフレーズは、中国滞在中に1日1回は必ず耳にするはずです。丸暗記しておきましょう。
- 这是什么?(Zhè shì shénme?)
これは何ですか?
食事中、買い物中、道端で、あらゆる「モノ」に対して使えます。 - 你说什么?(Nǐ shuō shénme?)
何て言いましたか?
相手の声が聞こえなかった時や、信じられない発言を聞いた時に使います。 - 做什么?(Zuò shénme?)
何をするの?/何してるの?
相手の行動の目的を尋ねる表現です。 - 为什么?(Wèi shénme?)
なぜですか?(Why?)
直訳すると「何のために」。理由を尋ねる最重要単語です。 - 什么意思?(Shénme yìsi?)
どういう意味?
相手の言葉の真意がわからない時や、単語の意味を知りたい時に便利です。
第2章:教科書には載っていない?ネイティブが連発する「啥(shá)」とは
中国のドラマやバラエティ番組、あるいはSNSを見ていると、「什么」の代わりに「啥(shá)」という言葉が頻繁に使われていることに気づくでしょう。
「啥」を使えると、一気にネイティブとの距離が縮まります。
「什么」と「啥」の決定的な違いと使い分け
「啥(shá)」は、「什么」の口語的(話し言葉)な省略形です。主に中国の北方方言から広まりましたが、現在では全国的に、特に若者の間で広く使われています。
| 単語 | 使用シーン | 相手との距離感 |
|---|---|---|
| 什么 (shénme) | 日常会話、ビジネス、書き言葉 | 誰にでも使える(標準的) |
| 啥 (shá) | 親しい友人、家族、SNS、チャット | カジュアル、フランク |
注意点: 初対面の人や目上の人、ビジネスの場では「啥」を使わないでください。少し馴れ馴れしい、あるいは教養がない印象を与えてしまうリスクがあります。
ドラマやSNSでよく見る「干啥?(何してんの?)」のニュアンス
「啥」を使った代表的なフレーズに「干啥?(Gàn shá?)」があります。
- 干什么?(Gàn shénme?):何をするのですか?(標準語)
- 干啥?(Gàn shá?):何してんの?/何だよ?(かなりカジュアル)
友人が奇妙な動きをしている時に「你干啥呢?(何やってんの?w)」とツッコミを入れたり、しつこく話しかけられた時に「干啥!(何だよ!)」と不快感を示したりする際によく使われます。
また、似た表現で「干嘛(Gànmá)」もあります。これも「何するの?」「何のために?」という意味で、「啥」と同じくらい頻繁に使われます。
例:「你干嘛不去?(なんで行かないの?)」
第3章:数字に関する「何」の落とし穴!「几(jǐ)」と「多少(duōshao)」
日本語では「何人」「何個」「何円」と、すべて「何」で尋ねることができますが、中国語では予想される「数」によって疑問詞を使い分けます。
金額を聞くときは、数が少なくても「多少」を使うのが鉄則です。
「10」を基準にするルールは本当?現代中国語のリアル
一般的な教科書には以下のようなルールが書かれています。
- 几(jǐ): 10以下の少ない数を予想する場合に使う。
- 多少(duōshao): 10以上の多い数、または不明な数を予想する場合に使う。
例えば、家族の人数を聞くときは、通常10人以下なので「你有几口人?(何人家族ですか?)」となります。
一方、会社の従業員数を聞くときは、10人以上いる可能性が高いので「有多少员工?(従業員は何人ですか?)」となります。
しかし、このルールには例外があります。
買い物で絶対に使う「いくら?」のバリエーション
金額を聞く場合は、たとえそれが1元(約20円)であっても、習慣的に「多少(duōshao)」を使います。
- 多少钱?(Duōshao qián?): いくらですか?(基本)
- 这个怎么卖?(Zhège zěnme mài?): これはどう売りますか?(=いくらですか?)
市場で野菜や果物を買うとき、「这个几块钱?(これは何元?)」と聞くこともありますが、「多少钱」と言っておけば間違いありません。
電話番号や部屋番号を聞くときの特殊ルール
電話番号やホテルの部屋番号など、「量」ではなく「番号(コード)」として数字を聞く場合は、桁数が多くても「多少」ではく「什么」や「几」を使うことがあります。しかし、最も一般的な聞き方は以下の通りです。
- 你的电话号码是多少?(Nǐ de diànhuà hàomǎ shì duōshao?)
あなたの電話番号は何番(いくつ)ですか? - 你在几号房间?(Nǐ zài jǐ hào fángjiān?)
あなたは何号室にいますか?
部屋番号や日付、曜日、時刻などは「順序」や「特定の位置」を表すため、数が大きくても「几」を使う傾向があります。
- 几月几号?(Jǐ yuè jǐ hào?): 何月何日?
- 星期几?(Xīngqī jǐ?): 何曜日?
- 几点?(Jǐ diǎn?): 何時?
第4章:日本人が最も勘違いする漢字「何(hé)」の正体
ここで本題のキーワード「中国語 何」に迫ります。日本語と同じ漢字の「何(hé)」。実は中国語にも存在しますが、使い方は日本語と全く異なります。
中国語の「何」は、歴史と格式を感じさせる美しい書き言葉です。
なぜ中国語では「何」を話し言葉で使わないのか?
現代中国語(普通話)の話し言葉では、基本的に「何」という漢字単体で「ナニ」という意味を表すことはありません。もし会話で「何?(Hé?)」と言っても、相手は「は?」とポカンとするか、あるいは非常に気取った、古風な言い方だと感じるでしょう。
現代語の「什么」は、歴史的な変遷を経て定着した口語表現であり、漢字の「何」は「文語(書き言葉)」や「成語(熟語)」の中に化石のように残っているのです。
古文や成語に残る「何」の格調高い響き
「何(hé)」は、非常に硬く、フォーマルな印象を与えます。以下のような熟語や慣用句で見かけることが多いでしょう。
- 如何(rúhé): どのように、いかに。
例:如何解决?(どのように解決するか?)
※口語の「怎么(zěnme)」のフォーマル版です。 - 何处(héchù): どこ、いずこ。
例:他在何处?(彼は何処にいるのか?)
※口語の「哪里(nǎlǐ)」のフォーマル版です。 - 何时(héshí): いつ。
例:何时开始?(いつ始まるのか?)
※口語の「什么时候(shénme shíhou)」のフォーマル版です。
ビジネスや公的文書で目にする「何」の使い方
ビジネスメールや契約書、ニュースのテロップなどでは、文字数を節約し、かつ威厳を持たせるために「何」が好んで使われます。
例えば、上司への報告メールで「いつ会議をしますか?」と書く場合、「什么时候开会?」よりも「何时开会?」と書く方が、簡潔でプロフェッショナルな印象を与えます。日本語の「いつ」と「何時(いつ)」、あるいは「どこ」と「如何なる場所」の違いに近い感覚かもしれません。
第5章:応用テクニック!「何」を使った強調・反語・全否定
疑問詞は「質問する」ためだけの言葉ではありません。中国語では、「什么」を使って「すべて」や「まったく~ない」といった強調を表すことができます。
「何も~ない」を伝える「什么都~(shénme dōu)」
この構文は超重要です。
「什么 + 都(dōu)/ 也(yě) + 否定形」で、「何も〜ない」という全否定を作ります。
- 我什么都不知道。(Wǒ shénme dōu bù zhīdào.)
私は何も知りません。 - 他什么也不吃。(Tā shénme yě bù chī.)
彼は何も食べません。 - 没说什么。(Méi shuō shénme.)
(別に)何も言っていません。
逆に、肯定文で使うと「何でも〜だ」という意味になります。
例:我什么都吃。(Wǒ shénme dōu chī.)
私は何でも食べます(好き嫌いはありません)。
驚きや怒りを表す感嘆詞としての「何」の使い方
文語的な「何」を使った感嘆表現もあります。
- 何等(héděng): なんと~だろう。
例:这是何等的失态!(これはなんという失態だ!)
「どうして~する必要があるの?」反語表現「何必(hébì)」
相手を諭したり、慰めたりする時によく使われるのが「何必(hébì)」です。「何のために必ずそうするのか(いや、する必要はない)」という反語です。
- 何必呢?(Hébì ne?)
どうしてそんなことする必要があるの?(しなくていいじゃないか) - 何必去那么早?(Hébì qù nàme zǎo?)
なんでそんなに早く行く必要があるの?(ゆっくりでいいよ)
喧嘩の仲裁や、悩み相談のシーンで非常に役立つ大人な表現です。
第6章:シチュエーション別!「何」を使いこなす会話シミュレーション
最後に、学んだ表現を総動員して、実際の会話でどう使うかを見てみましょう。
ケース1:レストランで注文が決まらない時
あなた: 这个是什么菜?(Zhège shì shénme cài?)
これは何の料理ですか?
店員: 这是麻婆豆腐。(Zhè shì Mápó dòufu.)
これは麻婆豆腐です。
あなた: 多少钱?(Duōshao qián?)
いくらですか?
店員: 二十五块。(Èrshíwǔ kuài.)
25元です。
あなた: 好,我要这个。你们喝什么?(Hǎo, wǒ yào zhège. Nǐmen hē shénme?)
じゃあ、これにします。君たちは何を飲む?
ケース2:街中で道を聞かれた時
通行人: 不好意思…(Bù hǎoyìsi…)
すみません…
あなた: 有什么事吗?(Yǒu shénme shì ma?)
何かご用ですか?(何かありましたか?)
通行人: 请问,地铁站在哪里?(Qǐngwèn, dìtiězhàn zài nǎlǐ?)
お尋ねしますが、地下鉄の駅はどこですか?
あなた: 哦,在前边。(Ò, zài qiánbian.)
ああ、前の方にありますよ。
ケース3:タクシーで行き先を伝える時
運転手: 去哪儿?(Qù nǎr?)
どこ行くの?
あなた: 到北京饭店。(Dào Běijīng fàndiàn.)
北京ホテルまで。
運転手: 啥?你说什么?(Shá? Nǐ shuō shénme?)
あ?何て言った?(※運転手さんは口調が荒いことが多いです)
あなた: 北京饭店!大概要多长时间?(Běijīng fàndiàn! Dàgài yào duōcháng shíjiān?)
北京ホテル!大体どのくらい時間かかりますか?
まとめ:質問力を高めて中国語の世界を広げよう
中国語の「何」には、これほど多くのバリエーションがあります。
- 日常会話の王様「什么(shénme)」
- 親しさを込めた「啥(shá)」
- 数を的確に捉える「几(jǐ)」と「多少(duōshao)」
- 格調高い書き言葉の「何(hé)」
これらを適切に使い分けることができれば、あなたの中国語は「外国人のカタコト」から「洗練されたコミュニケーション」へと進化します。まずは恐れずに、毎日の生活の中で「这是什么?(これは何?)」と問いかけることから始めてみましょう。好奇心こそが、語学上達の最大の近道です。
