日本でも「ラッキーセブン」や「4は縁起が悪い」といった数字にまつわるジンクスがありますが、お隣の中国でも、数字に対する縁起担ぎは非常に一般的です。むしろ、日常生活やビジネスの様々な場面で、日本人以上に数字の意味を強く意識していると言えるかもしれません。
例えば、中国人の友人から贈り物をもらった時、その個数や金額に特定の数字が使われていることに気づいたことはありませんか?あるいは、ホテルの階数に「4階」がなかったり、車のナンバープレートに「8」が異常に多かったり…。これらはすべて、中国の数字に対する独特の文化や考え方が反映されたものです。
この記事では、中国人が好む数字、嫌う数字とその理由、そして日本の数字文化との違いを徹底比較します。なぜ中国人は「8」を熱狂的に好み、「4」を徹底的に避けるのか? 日本の「奇数好き」とはどう違うのか? 数字に込められた文化や思想を知ることで、中国への理解を深め、より円滑なコミュニケーションを図るヒントが見つかるはずです。
なぜ中国人は「8」が好き?日本との違いは?縁起の良い・悪い数字の意味と文化を徹底比較!
目次
偶数好きvs奇数好き?数字に込められた日中の文化と思想
まず、日中の数字に対する基本的な考え方の違いとして、「偶数」と「奇数」のどちらを好むかという点が挙げられます。
中国文化:偶数と調和、そして語呂合わせの重視
中国では伝統的に偶数が好まれる傾向にあります。これは「好事成双 (hǎo shì chéng shuāng – 良いことはペアでやってくる)」という言葉があるように、ペアになること、対になることを吉兆と考える文化が根底にあるためです。偶数は調和、均衡、円満といったポジティブなイメージと結びついています。
その背景には、古代からの陰陽思想の影響も見られます。陰陽のバランスが重視され、偶数は「陰」の性質を持つとされますが、奇数(陽)とのバランスが取れることで安定や調和がもたらされると考えられました。結婚式(婚礼 – hūnlǐ)や春節(旧正月)などのお祝い事では、対聯(ついれん)を飾ったり、贈り物をペア(偶数個)で贈ったりする習慣に、この考え方が表れています。
さらに、中国文化で非常に重要なのが数字の語呂合わせです。特定の数字の発音が、縁起の良い言葉の発音と似ていることから、その数字自体が幸運をもたらすと信じられています。後述する「6」や「8」が特に好まれるのは、この語呂合わせによるところが大きいです。
日本文化:奇数と陽の気、そして言霊信仰
一方、日本では奇数が縁起が良いとされる場面が多く見られます。これも中国から伝わった陰陽思想の影響で、奇数は「陽」の性質を持つとされ、活気、発展、生命力といったポジティブなエネルギーを象徴すると考えられました。
日本の伝統行事には奇数が多く登場します。1月7日の人日の節句(七草の節句)、3月3日の上巳の節句(桃の節句)、5月5日の端午の節句(菖蒲の節句)、7月7日の七夕の節句、9月9日の重陽の節句(菊の節句)といった五節句はすべて奇数の日が重なっています。また、子供の成長を祝う七五三も奇数ですね。結婚式のご祝儀で割り切れない奇数の金額(3万円、5万円など)を包む習慣も、「縁が切れないように」という願いと共に、奇数=陽数=縁起が良いという考えに基づいています。
俳句の五七五、和歌の五七五七七というリズムも奇数で構成されており、言葉に宿る力を信じる言霊(ことだま)信仰とも相まって、奇数が持つリズム感や語感が好まれてきた側面もあります。
陰陽五行思想の影響とその解釈の違い
このように、日中ともに陰陽思想の影響を受けていますが、偶数と奇数のどちらをより「吉」とするかの解釈には違いが見られます。中国では「対になることの調和(偶数)」や「語呂合わせ」が重視され、日本では「陽のエネルギー(奇数)」や「割り切れない縁」が重視される傾向があると言えるでしょう。ただし、これはあくまで大まかな傾向であり、数字によっては例外もあります。
中国人が愛するラッキーナンバー:6, 8, 9 の意味と力
それでは、中国で特に縁起が良いとされる具体的な数字を見ていきましょう。「6」「8」「9」は、その発音の良さから絶大な人気を誇ります。
「6 (liù)」:順風満帆!ビジネス成功への願い
6 (六 – liù)
- 理由: 発音が「流 (liú – 流れる、スムーズな)」や「溜 (liù – 滑らかだ、上手だ)」に似ているため。
- 意味: 物事が順調に進む、スムーズに行く、成功する。
- 関連語: 六六大顺 (liù liù dà shùn – 万事順調)。
- 使われ方: ビジネスの契約日、開店日、電話番号、車のナンバー、お祝いのメッセージ(例:「666」=すごい!上手!というネットスラング)。結婚式の日取りや贈り物にも使われる。
「6」は、特にビジネスや学業、人間関係など、物事をスムーズに進めたい場面で好まれる数字です。
「8 (bā)」:富と繁栄!最もパワフルな縁起数字
8 (八 – bā)
- 理由: 広東語での発音が「発 (fā – 発財 fācái = 金持ちになる、発展する)」に非常に似ているため。(普通話でも近い)
- 意味: 富、繁栄、財産、成功、発展。
- 関連語: 发财 (fācái – 金持ちになる)。
- 使われ方: 中国で最も人気のあるラッキーナンバー。価格設定(例:88元)、電話番号、車のナンバープレート、会社設立日、開店祝い、結婚祝いのご祝儀(红包 hóngbāo)の金額(例:888元、1888元)、マンションの部屋番号など、あらゆる場面で好んで使われる。北京オリンピックの開会式が2008年8月8日午後8時に始まったのは有名。
「8」が連続するほど縁起が良いとされ、「8」がたくさん含まれる電話番号や車のナンバーは高値で取引されることもあります。

(お祝いの红包には「8」のつく金額が好まれる)
「9 (jiǔ)」:永遠と長寿!皇帝の色と愛の誓い
9 (九 – jiǔ)
- 理由: 発音が「久 (jiǔ – 久しい、永遠)」と同じため。また、一桁の奇数(陽数)の中で最大であり、古来より皇帝や天を象徴する最も高貴な数字と考えられてきた。
- 意味: 長寿、永遠、永久、最大、最高位。
- 関連語: 长长久久 (cháng cháng jiǔ jiǔ – 末永く続く)。
- 使われ方: 長寿祝い(例:9月9日の重陽節)、結婚や恋愛における永遠の愛の誓い(例:99本のバラ、結婚式の日取りを9のつく日にする)、友情の永続を願う場合など。歴史的建造物(例:紫禁城の部屋数など)にも「9」が多く使われている。
「9」は、特にロマンチックな場面や、永続性を願う場面で好まれる数字です。
中国人が最も嫌う数字:死を招く「4 (sì)」
発音だけじゃない?避けられる深い理由
4 (四 – sì)
- 理由: 発音が「死 (sǐ)」と非常に似ているため。
- 意味: 死、不運、不吉。
- 避けられる場面: 日常生活のあらゆる場面。建物の階数(4階、14階、24階…)、部屋番号、電話番号、車のナンバープレート、商品の価格、贈り物の個数、ご祝儀の金額など、可能な限り徹底的に避けられる。
中国における「4」の忌避感は、日本以上と言っても過言ではありません。単なる語呂合わせだけでなく、「死」に対する強いタブー意識が根底にあります。風水などでも「4」は凶数とされることがあります。
日常生活から不動産まで、徹底した「4」避け
中国では、「4」を避けるための様々な工夫が見られます。
- 建物: エレベーターのボタンに「4」階がない、または「3A」「5」などに置き換えられている。4階建ての建物を避ける。部屋番号に「4」を使わない。
- 電話番号・車のナンバー: 「4」が含まれる番号は人気がなく、逆に「8」が多く含まれる番号は高値で取引される。
- 価格設定: 商品の値段を「39元」や「48元」のように、「4」を避けた設定にすることがある。
- 贈り物: 個数や金額で「4」に関連する数字は絶対に避ける。(例:4個入り、400元などはタブー)
中国人と付き合う上では、この「4」に対する強い嫌悪感を理解し、配慮することが非常に重要です。

(中国では4階がないビルや、8が人気のナンバープレートがよく見られる)
日本人が大切にする縁起の良い数字:3, 7, 8
次に、日本で縁起が良いとされる数字を見ていきましょう。中国とは異なる数字が好まれる一方で、共通する数字もあります。
「3 (さん/みつ)」:調和と充足、区切りの良さ (七五三など)
3 (三 – さん, みつ)
- 理由: 奇数(陽数)であること。「満つ (みつ)」「充つ (みつ)」と音が通じること。割り切れない数であること。「三方よし」「御三家」など安定や調和、区切りの良さを示す表現が多いこと。
- 意味: 調和、安定、充足、完成、縁起が良い(割り切れない)。
- 使われ方: 七五三、三三九度、ご祝儀(3万円など)、記念撮影(はい、チーズ!の代わりの「いち、に、さん!」)、三本締め、ことわざ(三度目の正直、仏の顔も三度まで)。
「3」は、日本の文化や習慣の中に深く根付いている縁起の良い数字です。
「7 (なな/しち)」:幸運のラッキーセブン、神秘的な力
7 (七 – なな, しち)
- 理由: 奇数(陽数)であること。西洋文化由来の「ラッキーセブン」の影響。仏教における釈迦誕生時の「七歩歩行」や「七福神」など、宗教的な意味合い。
- 意味: 幸運、吉兆、ラッキー、神秘的。
- 使われ方: ラッキーセブン(野球、スロットなど)、七福神、七五三、七草粥、七夕。
「7」は、日本古来の信仰と西洋文化の影響が融合し、幸運のイメージが定着した数字と言えます。

(日本の七五三は奇数の「3歳、5歳、7歳」を祝う)
「8 (はち/や)」:末広がりの繁栄、豊かさへの期待
8 (八 – はち, や)
- 理由: 漢字の「八」の形が末広がりであることから。中国文化の影響(発音が「発」に近い)。
- 意味: 繁栄、発展、成功、幸運、豊かさ。
- 使われ方: 商売繁盛を願う場面(例:八百屋)、縁起の良い数として(例:八咫鏡、八百万の神)、中国ほどではないが価格設定や記念日など。
「8」は、中国ほど熱狂的ではありませんが、日本でも「末広がり」の形から縁起の良い数字として広く認識されています。
日本人が避けるアンラッキーナンバー:4, 9
次に、日本で一般的に避けられる数字を見ていきましょう。中国と共通する数字もあれば、全く逆の意味を持つ数字もあります。
「4 (し)」:死のイメージ、中国との共通点
4 (四 – し, よん)
- 理由: 読み方の「し」が「死」を連想させるため。
- 意味: 死、不吉、縁起が悪い。
- 避けられる場面: 中国と同様、病院の病室番号、ホテルの部屋番号、マンションの階数や部屋番号、駐車場の番号、電話番号、車のナンバープレートなどで避けられる傾向がある。(ただし、中国ほど徹底的ではない場合もある。「よん」と読むことで忌避感を和らげることも)
- 関連語: 四十九日(しじゅうくにち)。
「4」が「死」を連想させるため縁起が悪いとされるのは、日本と中国で共通しています。
「9 (く)」:苦しみを連想、中国とは真逆のイメージ
9 (九 – く, きゅう)
- 理由: 読み方の「く」が「苦」を連想させるため。
- 意味: 苦しみ、苦労、困難、縁起が悪い。
- 避けられる場面: 病院の病室番号や階数、ホテルの部屋番号などで避けられることがある。「4」と合わせて「49(始終苦しむ)」や「42(死に)」「49(轢く)」など、より強い忌み数とされることも。
- 関連語: 四苦八苦(しくはっく)。
中国では「永遠」や「長寿」の象徴として非常に好まれる「9」が、日本では「苦」を連想させるため嫌われるというのは、日中間の数字に対するイメージが真逆になる典型例であり、非常に興味深い点です。
他にもある?日中で意味が異なる・特別な数字
これまで見てきた数字以外にも、日中で意味合いが異なったり、どちらかの国で特別な意味を持つ数字があります。
- 「5」: 中国語の「五 (wǔ)」の発音が「无 (wú – 無い)」に似ていることから、商売などでは避けられることがある一方、五行思想の中心でありバランスが良いともされる。日本では「ご」が「ご縁」に通じるとして好まれる側面もある。
- 「10」: 中国語の「十 (shí)」は「実 (shí)」と同じ発音で「満ち足りている、完璧」という意味合いで使われることがある (例: 十全十美 – shí quán shí měi)。日本では特に強い吉凶イメージはない。
- 「13」: 西洋文化の影響で、日本でも中国(特にキリスト教徒や若者)でも不吉な数字とされることがある。
現代の変化と新しい語呂合わせ(520など)
伝統的な縁起担ぎだけでなく、現代ではインターネットや若者文化の中から新しい数字の語呂合わせが生まれています。特に中国では、ネットスラングとしての数字の語呂合わせが非常に盛んです。
- 520 (wǔ èr líng): 発音が「我爱你 (wǒ ài nǐ – 愛してる)」に似ていることから、5月20日はネットバレンタインデーとして定着し、恋人たちが愛を伝え合う日になっている。
- 1314 (yī sān yī sì): 発音が「一生一世 (yī shēng yī shì – 一生一代、永遠に)」に似ていることから、「5201314」で「永遠にあなたを愛してる」という意味で使われる。
- 666 (liù liù liù): 元々はゲーム用語で「すごい!上手!」という意味。「溜溜溜 (liù liù liù)」に由来。
- 88 (bā bā): 「拜拜 (bāibai – バイバイ)」の意味で使われることがある。
これらの新しい語呂合わせは、特に若い世代のコミュニケーションで頻繁に使われています。
【実践編】日中交流で数字の知識を活かすには?
これまでに学んだ日中の数字に関する知識は、実際のコミュニケーションやビジネスシーンで役立てることができます。
贈り物選びのヒント(個数、金額)
- 中国人に贈る場合:
- 個数: 偶数(特にペア)、8個、6個などが喜ばれる。絶対に4個は避ける。
- 金額 (红包など): 8や6、9のつく金額(例: 88元, 666元, 999元, 1888元など)を選ぶと良い。4のつく金額は絶対に避ける。
- 日本人に贈る場合:
- 個数: 奇数(3個, 5個, 7個など)が好まれる場合が多い。セットの場合は偶数でも問題ない場合も。
- 金額 (ご祝儀など): 奇数(1万円, 3万円, 5万円など)が基本。4万円、9万円は避けるのが一般的。
会話のネタとしての活用法
数字に関する文化の違いは、面白い会話のきっかけになります。
- 「中国では8が人気だと聞きましたが、なぜですか?」「日本では7がラッキーナンバーと言われますよ」など、お互いの国のラッキーナンバーについて質問し合う。
- 「日本では4と9は縁起が悪いと言われますが、中国では9は良い数字なんですね!」のように、違いに驚きを示す。
- 「520ってどういう意味ですか?」など、現代の新しい語呂合わせについて教えてもらう。
相手の文化に興味を示すことで、親近感が湧き、会話が弾むでしょう。
ビジネスシーンでの配慮(価格設定、契約日など)
- 価格設定: 中国市場向けの商品価格に「8」を取り入れたり、「4」を避けたりする(例:398元、888元など)。
- 契約日・イベント日: 重要な契約日やイベント開催日などを設定する際に、中国側パートナーの意向を汲み、「8」や「6」のつく日を選んだり、「4」のつく日を避けたりする配慮を見せる。
- 電話番号・口座番号など: 可能であれば、中国の取引先向けに「8」が多く含まれる番号を用意するなどの配慮も喜ばれる可能性がある。
数字に対する配慮を示すことは、相手への敬意を表し、良好なビジネス関係を築く上でプラスに働くことがあります。
まとめ:数字から見える文化の違いを楽しもう
中国と日本では、縁起が良いとされる数字、悪いとされる数字に違いがあり、その背景にはそれぞれの国の歴史、文化、思想、言語(発音)が深く関わっています。中国では偶数や語呂合わせの良い「6」「8」「9」が好まれ、「4」が徹底的に避けられます。一方、日本では奇数や言霊が重視され、「3」「7」、そして中国と共通の「8」が好まれる一方、「4」と「9」が嫌われる傾向にあります。
これらの違いは、どちらが正しいかという問題ではなく、それぞれの文化が生み出してきた興味深い特徴です。数字という身近なテーマを通じて異文化理解を深めることは、国際交流やビジネスを円滑に進める上で非常に有益です。
中国人と接する際には、彼らの数字に対する感覚に配慮を示し、また、日本の数字文化について紹介してみるのも良いでしょう。数字から見える文化の違いを楽しみながら、相互理解を深めていきましょう。