中国古典文学の四大悲劇-史実とはずいぶん違う「赵氏孤儿」

    1. 中国ドラマ・アニメ

    中国古典文学の四大悲劇の中で幾度もリメイクされているものの一つが「赵氏孤儿」です。

    命を懸けた忠義、悪に対する正義の戦いが題材ですが、実は作品が世に出た時から史実とはずいぶん違う内容に改編されてしまっているのです。どういう訳なのでしょう?

    中国古典文学の四大悲劇-史実とはずいぶん違う「赵氏孤儿」

    「赵氏孤儿」-話のあらまし

    赵氏孤儿Zhàoshìgū’ér

    舞台は紀元前6世紀の中国春秋時代、「晋国」(Jìnguó)での出来事です。

    題名にある「赵氏」(Zhàoshì 趙家)一族は代々晋国の重臣でしたが、政敵「屠岸贾」(Tú’ànGǔ)の陰謀によって、生まれてすぐの赤子ただ一人を除く一族300人余りが皆殺しにされてしまいます。

    その生後間もない遺児の「赵武」(ZhàoWǔ)をも抹殺するために、国中の生後一か月から半年までの嬰児をすべて殺すようにという非情な命令が下ります。

    出産時に赵武を取り上げた医師の「程婴」(ChéngYīng)は友人で趙家の食客だった「公孙杵臼」(Gōngsūn Chǔjiù)と相計って、ほぼ同時期に生まれた我が子を赵武の身代わりにします。

    そして公孙杵臼赵武をかくまっているとわざと密告し、友人と我が子は目の前で殺されてしまいます。

    世間から友を売って敵に寝返ったと非難されながらも、敵の懐に入り込んだ程婴は密かに赵武を育てます。やがて大人に成長した赵武は一族の仇を討つのです。

    中国の木のテーブルにカチンコとペン。

    国内外で人気の作品

    原作は元時代(14世紀頃)の戯曲作家「纪君祥」(JìJūnxiáng)が「杂剧」(zájù)として著した「赵氏孤儿大报仇」(Zhàoshìgū’érdàbàochóu)です。

    当時から大変人気の作品で、今では歴史小説、京劇を含む数々の中国伝統演劇、歌劇、TVドラマ、映画、子供向けアニメまであります。

    初めてヨーロッパで上演された中国伝統演劇でもあり、18世紀にはフランスで翻訳されるほどでした。改編に次ぐ改編が重なり、作品ごとに人物の背景や設定の異なる部分があります。

    近年の作品で楽しむ

    有名な俳優たちが揃って出演したのが2010年発表の映画「赵氏孤儿」です。遺児を助ける医師の「程婴」役を演じた「葛优」(GěYōu)は幾つもの映画祭で最優秀主演男優賞を受賞しました。

    主人公の母親「庄姬」(ZhuāngJī)役は「范冰冰」(FànBīngbīng)です。

    同じ2010年には90分のアニメ映画と、1話30分・全26話の連続アニメの両方が作られました。また全45話の「赵氏孤儿案」(Zhàoshìgū’éràn)は2013年作の連続ドラマで、各方面の優秀TVドラマ賞を受賞しています。

    さらに2016年には「京剧」(Jīnjù)の著名な演者による京劇版映画も作られています。どれも見応えがありますよ。

    中国の文化遺産を象徴する、歴史という文字が書かれた紙。

    史実はというと?

    事件が起きた時代に最も近い歴史書「左氏春秋」(Zuǒ shìchūnqiū)の記述が恐らく真実に近いのではないかと言われています。

    その記述によると「赵朔」(ZhàoShuò)に嫁いでいた晋国の王の姉「庄姬」が夫の叔父「赵婴」(ZhàoYīng)と密通したことが一族に漏れてしまいます。

    国で一番の名家にとってあってはならない大きな恥辱だったため、情夫の赵婴は一族から追放され隣国で亡くなります。

    それを恨んだ庄姬赵氏一族が内乱を起こそうとしていると国王に讒言し、それを真に受けた国王は赵氏一族を滅ぼしてしまいます。

    宮廷で母と共にいた幼い赵武は何の影響も受けずに生き残り、早まった判断をしてしまったと悔いた国王から、一族がかつて国に示した忠誠と貢献への報いとしてすべての領地を手にしたのでした。

    この記録には、政敵の屠岸贾や赵武をかくまった程婴公孙杵臼などの名前は一切出てきません。

    異なる二つの記述の原因は歴史の改ざん?

    一度は滅亡しかかった赵氏一族ですが、赵武の子孫は繁栄し、戦国時代に突入した5世紀終わりに「赵国」(Zhàoguó)を興しました。

    建国後、国の歴史を編纂するには君主を神格化し、その正当性を前面に出さなくてはなりません。そのためには都合の悪い事実を隠す必要がありました。

    史记」(Shǐjì)筆者の「司马迁」(SīmǎQiān)は、「晋世家」(Jìnshìjiā)では「左氏春秋」とほぼ同じ密通事件による赵氏一族の滅亡危機を書いています。

    ところが同じ「史记」の「赵世家」(Zhàoshìjiā)には赵国にとって正史となっていた政敵による虐殺事件を著しました。そうすることで国による歴史の改ざんの痕跡を残してくれたのかもしれません。

    Hěnmíngxiǎn,yī geguānyúzhōngchénghézhèngyì de hǎogùshi,

    很 明显,一个 关于 忠诚 和 正义 的 好 故事,

    yōngyǒudǐkàngxié’è、zhī ēntúbào、shě shēngqǔyì、

    拥有 抵抗 邪恶、知 恩图 报、舍 生 取义、

    yǒuyuānbìshēnyǒuchóubìbàoděngchuántǒngwénhuàshífentuīchóng de sīxiǎng de gùshi,

    有 冤 必 伸 有 仇 必 报 等 传统 文化 十分 推崇 的 思想 的故事,

    gèngróngyìdédàoxǔduōrén de rènkě he chuánbō。

    更 容易 得 到 许多 人的 认可和 传播。

    明らかに、忠誠と正義についての良い話、悪に抵抗し、恩を知って恩に報い、正義のために命を捨て、無実の罪は必ず晴らされ遺恨も必ず晴らされるなど、伝統的文化が非常に高く評価するイデオロギーを持つ物語は、より容易に多くの人々から認められ広まっていくものです。

    まとめ

    こうして歴史の事実は書き換えられてしまうのかと思いながら見てみると、また違った印象を受けるものですね。

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